完璧(100%)が目標

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「どいて僕がやる!」 気付くと大川先生が横に居た。 「えっ?」 「急いで!!」 「はい!」 直ぐに大川先生が私の位置と代わり、顕微鏡の高さ調整し、腫瘍の切除に入った。 私は急いで反対側に周り、顕微鏡のもう一つのレンズを覗き込んだ。 「凄い・・」 彼は物凄いスピードで腫瘍の切除をしている。次々に現れる脳神経の位置を完全に把握している様だ。私が脳神経の位置が分からなくハサミを入れるの躊躇していた場所を速やかに切り取り、脳神経の直前で丁寧に刃先を動かし、脳神経から確実に腫瘍を剥がしている。 「子供の脳は小さいだけでなく、成長途中だから脳神経や血管の位置も安定していない。でも、子供の症例が完璧に出来るようになれば、大人の症例は120パーセントの信頼性で手術が出来る。だから、アメリカでの僕の手術実績は半分が子供の物だ・・」 彼は石灰化した腫瘍を超音波メスでに持ち替え確実に切除している。腫瘍の奥の血液溜まりが見えて来た。 「僕の失敗した脳動脈瘤事例は二例ある。何れも子供の症例で腫瘍との複合だったり、脳深層でクリップをアプローチさせる事が出来なかった事例だ。でも、教授が直ぐにカテーテルでのコイル塞栓術(そくせんじゅつ)でバックアップをしてくれた。子供の場合は成長に伴って動脈瘤を塞いだコイルが緩くなり再発する可能性が有るからコイル塞栓術(そくせんじゅつ)は殆ど使わないんだけど、彼はコイル表面に給水性ポリマーをコーティングした新開発コイルでその子達を助けてくれた。だから僕の手術としては失敗だけど、チームとしてはその二件は成功したと言える」 彼は腫瘍の摘出を全て終え、吸引機で脳内に溜まった血液を吸い出している。 「君は勘違いしているみたいだけど、自分一人で完璧(100%)を目指す必要は無いんだ。この手術だって高田さんが麻酔深度と輸血量をコントロールしてくれている。川橋さんは適切な器械出しをしてくれる。彼女達のサポートが無ければ、どんな腕の良い医師も完璧な手術は無理だ。代わってくれる?」 「えっ?」 「この先は、君の方が上手いだろう。手術は『チーム』で完璧(100%)を目指せばいいんだ」 大川先生と執刀を代わると既に脳血管の出血部位が確認出来る。 「ここにも動脈瘤が有ったのね。それが破裂したんだ・・」 私はバイポーラーで動脈瘤の破裂箇所を焼いて出血を止めた。クリップを動脈瘤に掛け完全に止血する。もう一つの動脈瘤を同様にクリップで留めて、将来の破裂を予防した。 そして手術は終わった。 私は大川先生の言葉を思い出していた。 「チームで完璧(100点)を目指せばいいか・・」 私は大きな勘違いをしていたのかもしれない・・。
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