act.34

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act.34

<side-SHINO>  仕事を放りっぱなしにしていたので、会社の就業時間は過ぎていたが、俺は一旦社に戻ることにした。  会社に戻ると、意外なほどに皆なんの反応もなく、俺は胸を撫で下ろした。  そうだよな。  会社にいる人間が、この時間、テレビを見てる訳がない。  変に茶化されるのは嫌だと思っていたので、俺は心底ほっとした。  日本酒課の部屋の手前まで来て、ハッとする。   ── そういえば、田中さんに借りた本、休憩室に放りっぱなしにしてきてしまった。  俺は慌てて、上の階にある休憩室に向かった。  でもそこには既に本なはくて。  ああ、困った。  誰かが、持って行っちゃったのかな・・・。  俺は、日本酒課に取って返した。  よかった。まだ田中さん、帰ってなかった。  俺は、真っ直ぐ田中さんの席に向かう。 「あの・・・、ごめん! 貸してくれた本なんだけど・・・」  田中さんが、俺を見上げる。  なに? そのしたり顔的な表情。 「心配無用です。本は、私がきちんと回収しましたから」  田中さんが、引き出しを引く。  そこには、ちゃんと本が仕舞われてあった。  俺は、ほぅと息を吐く。 「よかった・・・! なくしたかと思って・・・」 「大丈夫です。篠田さんのフォローは、私がきちんとしますから」  田中さんが、力強い目で俺を見る。  俺はその意図がよく分からなくて、「あ、ああ・・・。ありがとう」と呟いた。 「ところで、フォローって、なんのこと・・・?」  俺はそう訊いたが、田中さんは俺から視線を外し、本を胸に抱き締めながら宙を見つめると、「私達、シノサワ同盟を結成したんで。・・・いや、サワシノ同盟になるのかしら・・・? どっちだろ?」と呟いている。  俺には、彼女の言っていることが、益々分からない。  なに同盟だって???  そこを田中さんに再び訊こうとした時、「おい! シノ! 三津坂屋の件、どうなったんだ!」と課長に呼ばれた。 「はい! 今行きます!」  俺は疑問をそのまま残したまま、課長の元に走った・・・。  結局、午後の仕事をさぼったせいで仕事が山積し、帰宅する頃には11時を回っていた。  バスもとっくになくなっていて、俺は駅前から家まで歩くしかなかった。  この道、前もこうして歩いたっけ。  確か、千春に初めて出会った日。  女々しくベソをかきながら帰っていたら、花村と抱き合っている千春がいたんだよな。  俺はその時の光景を思い出して、内心黒い感情が沸き上がってくるのを感じた。  俺って、こんなに嫉妬深い男だとは知らなかった。  思い出にまで嫉妬するなんて。  ただ同時に、こんな気持ちになるまで人を好きになることができたんだという喜びも感じていた。  中学の時のトラウマで、もうまともに人を好きになるなんて、できないかもしれないと思っていたから。  だから・・・。  ありがとう、千春。  もし千春から、なんの返事ももらえなかったとしても、俺の千春に対する感謝の気持ちは変わらない。ずっと。  外見だけじゃない、俺の心まで変えてくれたのは、千春だから。  人を好きになる喜びを与えてくれたのは、君だったから。  ただ、その君が傍にいてくれないことは、途轍もなく悲しいけどね・・・。  俺はまた危うく泣きそうになり、スンと鼻を鳴らすと、角を曲がった。マンションが見える始める。  俺は、足を止める。  マンションの前に、人影。  背が高くて、栗毛色の髪をしてて、一体何頭身だって思えるくらい顔のちっちゃい、超絶キレイな、男。  ・・・・・千春・・・・・。  幻覚じゃないよな?  俺は両目を擦って、顔を上げる。  でもそこには確かに千春がいて。  千春は俺に気付くと、首を傾げて、ちょっと困っているような、苦笑いにも似た表情を浮かべた。  眉毛が、キレイに八の字になってる。  急に走って行ったら消えてなくなってしまう気がして。  俺はゆっくり歩いて千春に近づいた。 「千春。ずっとここで、待っててくれたのか?」  俺が恐る恐る声をかけると、千春は少し頷いた。  凄く、真剣な表情。 「テレビ、見てました」 「うん」 「だから、シノさんに返事を伝えなきゃと思って」 「ああ」  俺はすうと息を吸い込む。  いよいよ、審判がくだされる瞬間だ。 「 ── シノさん。僕はあなたのこと、好きということではないんです」  千春は、そう言った。  ああ・・・と俺は思った。  これが、千春の答えなんだ、やっぱり。  そうなんだ・・・。  何とも言えない喪失感を感じていると、千春が、俺の右手を両手で包み込むようにして握った。 「僕はシノさんを愛しています。好きなんて言葉じゃ、足りないんです」 「え・・・」  俺は千春の顔をもう一度見つめた。   ── 千春・・・、それって・・・  千春はテレくさそうに笑いながら、「僕もあなたなしじゃ、やっぱりダメなんです」とまた小首を傾けた。  千春は俺から手を離すと、右目の目尻に浮かんだ涙を指で拭う。 「千春・・・!」  俺はカバンを放り出して、千春を抱き締めた。 「・・・シノさん」   千春が、抱き返してくる。  そうしてやっと、千春をこの手にできたんだと実感した。   ── ああ、千春・・・。本当に、よかった・・・。よかった・・・! 「千春、好きだよ・・・。俺も、愛してる」  俺が顔を起こしてそう告げると、今度こそ千春はポロリと涙を零して、俺に口づけた。  俺も千春の頬に手を添えて、口づけを返す。  前は、花村がこうして千春に口づけていたのに。  今は俺が千春に口づけている。  俺は、昔の記憶を消し去るためにも、何度も何度も千春に口づけた。  その度に、愛しさがこみ上げてくる。  千春、本当に俺は、君が好きだ。こんなにも君が、好きなんだ。  二人で荒い吐息を吐き出しながら、見つめ合う。  こんなに間近で千春の顔を見るのは久しぶりだったけど、やっぱり凄くキレイで。  こんな素敵な人が、俺のものになってくれたんだという喜びが、俺の中に沸き上がって。  俺は千春の手を掴んでグイッと引っ張ると、マンションの中に入ろうとした。 「 ── シノさん! カバン、カバン!!」 「え? ああ」  俺は千春に言われて、初めてカバンを忘れていることに気がついた。  千春が、空いた方の手を伸ばしてカバンを拾う。 「まったく・・・。夢中になると、いろいろすぐに忘れちゃうんだから」  千春にこうして小言を言われるのも、もはや快感としか感じられない俺。  これって、かなりヤバいかな?  俺は、俺のカバンを持ったままの千春の手を引いて、マンションに入る。  とにかくすぐ、何よりも早く、千春を抱きたいと思ったから。  鼻息荒くてみっともないし、ムードもへったくれもなかったけど、それが俺の正直な気持ちだった。  二人でエレベーターに乗り込んで、また俺は千春に口づけた。  ハァハァと呼吸が上がる。 「 ── 千春、部屋に着いたら、すぐ抱きたい・・・。いい?」  千春は唇を噛み締め、ウンウンと頷く。  また俺は口づける。  そうしていたら、チーンと音が鳴って、ドアが開いた。  俺は千春の手を引いて、俺の部屋へと急いだ。  ドアを開けようとして、当たり前だが鍵がかかっていることに気付く。 「鍵」  俺がドアノブを睨みつけてそう呟くと、千春が慌ただしく俺のカバンの前ポケットを探った。 「シノさん、鍵!」  千春が鍵を差し出したが、俺に渡す前に落としてしまった。 「あ! ごめんなさい!」  俺達は同時に鍵を拾いに行く。  ゴチンと額をぶつけて、互いにそこを押さえた。  顔を見合わせる。  ふいに身体の力が抜けて、二人で吹き出した。 「俺達、ちょっとガッツキ過ぎかな」 「 ── そうですね」  フフフと千春が笑う。  俺は本当におかしくなって、近所迷惑も省みず、ハハハと高笑いをしてしまった。  その俺の頬を、千春の手が優しく撫でる。  今度は千春から、そっとキスをしてきた。  千春の舌先が俺の唇を撫で、俺はそれを受け入れる。  さっきまでの、唇を押し付け合うキスとは違う、静かだけど情熱的なキス。  唇を離すと、千春がペロリと唇を舐めた。 「・・・早く部屋に入りましょう」  千春が呟いた。俺は頷く。  鍵を拾って、ようやく鍵を開けると、俺達は部屋の中に入った。  カバンは玄関先に放り出した。  俺は、そのまま玄関側のドアを開ける。 「シノさん、相変わらずこの部屋で寝てるの?」  俺の肩に顎を乗せて、千春が部屋の中を覗き込む。 「うわ、カオス状態に戻ってる」  部屋の散らかり具合を見て、千春が言う。  さすがに俺もバツが悪くて、ベッドの上や床に広がるシャツやタオルを一纏めにした。そのまま洗面所に持って行こうとするのを千春の手に阻まれた。 「バスタオルは、あった方がいいから」 「え? 汚いよ?」 「シノさんの身体拭いただけでしょ? それでいいから。時間がもったいない」  そう言いながら千春は、ジャケットを脱ぐ。  俺もそれを見て、手の中のものをベッドの片隅に置くと、スーツの上着を脱いだ。  先に千春が裸になる。  俺は、その身体に見惚れてしまって、脱ぐのが少し出遅れた。  千春が俺を振り返る。  俺はハッとして、再びシャツのボタンを外し始めた。  待ちきれないのか、千春が跪いて俺のベルトを外す。  スラックスのジッパーが下げられ、すとんとそのまま床に落ちた。  俺はそれを足から引き抜こうとしたが、腰を掴まれ、下着をずらされた。そのままソコを千春に銜えられてしまう。 「 ── アッ!」  思わず声が出る。  腰が引けたが、千春の腕が逃がさない。 「ちょ・・・、千春・・・汚い・・・」  最初の時もそうだったのだが、俺はシャワーを浴びずにセックスをしてしまったので、本当いうと俺の身体は汚れていた。  今もそうだ。  それなのに千春は、ソコを熱心に口で愛撫してくる。 「な、千春・・・」  俺が千春の髪を少し掴むと、千春は俺を銜えたまま、上目遣いで俺を見た。   ── クゥ・・・。エ、エロいよ、その目。 「なに? 邪魔しないで、シノさん」 「でもさ。俺、シャワー浴びてないから、汚い」 「だから僕がキレイにしてるんでしょ」  千春はそう言って、再びソコを銜える。  激しく吸われて、俺の身体は跳ね上がった。 「ンンッ! ァぁあ・・・!」  膝が砕ける。  そのまま自然にベッドに崩れ落ちた。  千春に、下着と靴下を脱がされる。 「シノさん、身体、ちゃんと仰向けにして」  俺は千春に言われるがまま、片膝を立てて体勢を整えた。  千春が、上から俺の全身を見つめてくる。  頬がカッと熱くなった。  千春の目は、本当に舐めるように俺の裸を見たからだ。 「シノさん・・・、凄くセクシーだね。キレイ」  その言葉、そっくり千春に返すよ。  下から見上げる千春の身体は、完璧なまでにキレイで。  まるで美術館に並んでる彫刻のようだ。  千春が、俺の乳首に手を伸ばす。  指で触られて、俺の身体はピクリと震えた。  男でも乳首が感じると教えてくれたのは、千春だ。  触られているのは胸なのに、下半身の方がざわめく。  俺は堪らなくなって千春の手を掴むと、俺の身体の下に組敷いた。  そのままキスをする。  舌で千春の顎を辿って首筋に吸い付くと、「ハッ・・・・ぁ・・・!」と千春が小さな声を出した。  なおも肌を吸うと、千春が「ヤダ・・・、シノさん、痕がついてしまう・・・」と囁いた。  俺は顔を上げる。 「 ── 困る?」 「少し」  千春が苦笑いする。 「少しか」  俺はそう言うと、首筋を更に強く吸った。 「アッ、んあぁ・・・!」  千春が、俺の頭を抱き締める。でも抵抗するような素振りは見せなかった。  俺は顔を上げる。  キレイなピンク色のキスマークができていた。  俺がその痕を指で辿ると、千春の身体がピクリと跳ねた。 「キレイに、ついた」  俺が笑うと、千春が唇を尖らせた。 「もう、シノさんったら」 「他にもつけていい?」  俺がそう訊くと、千春はコクリと頷く。   ── カワイイ。超絶、カワイイ。  俺は、千春の身体を舌で辿った。  千春が前にしてくれたように、乳首を口に含む。  さっきしたようにキツく吸うと、「アゥッ!」と千春が声を上げて、身体をよじった。  でも、逃がすもんか。  なおも吸い続けると、「あぁ・・・あっ、シノさん、ダメ・・・」と千春が泣きそうな声を上げる。  俺が顔を上げると、千春はハァハァと胸を喘がせた。 「 ── ちょっと今日僕、おかしい・・・。感じ過ぎて、おかしい・・・」 「いいじゃないか。俺は、その方が嬉しい」  俺は、千春の胸やお腹にキスの雨を降らせる。  千春は、おへそのすぐ下が弱いっていうことに気がついた。  僅かに生える毛の流れに添って舌を這わせると、「んぅ・・・んっ」と声を上げて、俺の髪をかき乱す。  そこをキュッと吸うと、千春の両膝が俺の身体を締め付けた。  俺の喉元に当たっている千春のソコは既に濡れていて、カチカチに勃っていた。  俺は一旦身体を起こす。  熱っぽく潤んだ千春の瞳が俺を見上げた。  俺が千春の目を見つめた後、ゆっくりと視線を千春のアソコに向けると、千春は何かを悟ったのか、唇を噛み締め、顔を背けた。  その表情は、羞恥心でいっぱいだとでも言いたげに、真っ赤になっていた。  俺がそっと指でペニスのラインを辿ると、千春の身体が激しく跳ねる。 「アッ!! ホントに、ダメ! これじゃ、すぐイッてしまう・・・」 「我慢せずにイケばいい。俺、千春のイクとこ、見たい」 「シノさん・・・」  千春が泣きそうな声を出す。 「それとも、一回イクと、気持ちが冷める?」  俺がそう訊くと、千春は首を横に振った。 「多分、それは絶対にない」 「じゃぁ、いいだろ」  俺は千春のソコを手に取り、強弱をつけて扱いた。  手が濡れる感触。  凄く、イヤらしい・・・。 「ァああッ!! ヤッ! あ、あぁー・・・!」  千春が首を反り返らせる。  俺は首のキスマークを、また吸った。  セックス初心者の俺が、いつもは冷静でドSな千春を喘がせていると思っただけで、酷く興奮する。 「ヤダ・・・っ、シノさん、イク・・・・!」  俺は、間近で千春の顔を見た。  イク時のキレイな顔、見たかったから。  初めての時は余裕がなくて、とてもそれどころじゃなかったんだ。  千春が、大きな瞳を潤ませて、俺を見る。  苦しげで、でも熱に浮かされた、色っぽいけど本当にキレイな表情。  千春の震える手が、俺の頬を撫でる。 「 ── ンッ・・・・・!」  千春が瞳を閉じる。  その瞬間、俺の手がさっきよりも濃厚な滑りを感じた。   ── 千春・・・,俺の愛撫でイッてくれてる・・・。  俺は千春の顔を見つめたまま、千春のペニスの先の滑りを広げるように撫でた。  ビクリビクリと千春の身体が跳ね、勢い余って俺達はベッドから転がり落ちた。 「千春、大丈夫か?」  俺が慌てて訊くと、千春はハァハァと肩で息をしながら、「やっぱシノさんのベッド、狭過ぎる」と呟いた。 「ごめん」  俺が頭を掻くと、千春は顔を顰めた。 「ああ、シノさん。そんなことすると、髪に僕のがついちゃう・・・」  俺は左手を見下ろした。  確かに、手が白く濁った液体で濡れていた。 「あ~、ついちゃった・・・。ちょっと待って」  千春が、その辺の床を探る。 「いいんじゃないか? 後で風呂に入ればいいんだし」 「そうだけど・・・。カピカピになっちゃいますよ」 「いいって」  俺は千春を引き寄せると、またキスをした。 「・・・んっ・・・」  千春が鼻を鳴らす。 「 ── ハァ・・・。シノさん、キス、うまくなったよね」 「そう?」 「うん。キスだけで、感じてしまうもの、僕」  俺は、千春のソコに触れてみる。  おっ、確かにもう堅くなってきてる。 「ヘヘッ」  俺が笑うと、「なに、その笑い方」と千春が半分笑いながらも顔を顰めた。  俺は、そのまま身体を下げて、千春を口に銜える。 「え?! ちょっと! シノさん!!」 「ん?」  俺が口に千春を銜えたまま千春を見ると、千春が目を細めた。 「何やってるんですか?!」 「何って・・・、千春がしてくれたこと・・・」 「無理にしなくてもいいんですよ」 「無理なんかしてないよ。したいんだ。千春よりはずっと下手だと思うけど・・・」  俺はそう呟いた後、ペロリと千春を舐める。 「アッ! シノさん・・・」  なんか不思議な味。もちろん、味はおいしいとはいえないけど、頭では“おいしい”と思えるから不思議だ。  俺は、千春の感じている顔を見ながら、ペニスの先端をペロペロと舐めた。 「もう・・・ヤダ・・・・ホントに・・・」  千春が鼻をグズグズ言わせる。 「・・・あぁ・・・んぅっ・・・んっ」  しゃくり上げるように声を上げる。 「待って、シノさん。またイッちゃうから、もうやめて」 「え?」 「だって・・・。シノさんが欲しいのに・・・。すぐにでも欲しいのに・・・。これでまたイッちゃったら、またその気になるまでお預けになる。そんなの、イヤだ」  千春! なんてこと言うんだ!!  ああ、こめかみの血管、キレそう、俺。 「じゃぁ、も、入れていい?」  俺はそう訊いて、ハッとした。 「あ・・・、俺んち、コンドーム、ない」  俺は身体を起こす。  どうしよう。  これまで縁がなかったから、買い置きする習慣がなかった。  千春が、抱きついてくる。 「今日は生でいいよ、シノさん・・・。そのままして」 「え? 大丈夫?」  千春は頷く。 「ただ、ローションがないのがちょっと不安・・・。でも、何とかなる。僕、準備してきます。お風呂、借りていい?」 「ああ、いいよ」  千春が立ち上がって、部屋を出て行く。  なんか、千春にヌードのまま部屋の中を歩かれると、凄く興奮する。  自分が素っ裸で歩いても、なんとも思わないけど。  いやいや、そんなバカなことを考えている暇はない。  ローションの代わりになるもの、何かないかな・・・。   ── あ! あれはどうだろう!  俺は、ダイニングに向かった。  前に千春が買っておいてくれた、オリーブオイル。  オリーブオイルは、マッサージにも使うって聞いたことがあるから、使えないだろうか。  俺は、風呂場に取って返した。 「なぁ、これなら、ローションの代わりになりそう・・・?」  俺が風呂場のドアを開けると、千春がバスタブにかけてあった片足をすぐに降ろして、壁際に身体を引っ付けた。 「ダメですよ! いきなり開けたら!」  床には、シャワーヘッドが取られたホースが横たわっていて、お湯が流れ出している。  俺が千春を見ると、千春は唇を噛み締め、顔を真っ赤っかにしながら、泣きそうな目で俺を見ていた。  千春の股の間から、長い脚を伝って、お湯が零れ落ちている。  俺は、千春の言う“準備”の意味を初めて理解した。 「そういうことか・・・」  俺が呟くと、「もう、信じられない・・・。恥ずかし過ぎる・・・」と千春が顔を両手で覆った。  俺は千春の濡れた身体を抱き締める。 「俺、千春に負担かけてたんだな・・・。ごめん」 「負担って・・・そんな・・・。幻滅したでしょ。現実突きつけられて。ゲイのセックスって、つまりこういうことだから・・・」  俺は苦しげにそう言う千春をジッと見つめた。そのままオリーブオイルを指に取って、千春の腰に手を回し、ソコに指を押し付け、優しく撫でた。 「ヤッ! シノさん・・・!」  指に、お湯がまとわりつく感触。  そのまま俺は、つぷっと中指を入れた。 「アァッ」  千春が俺にしがみつく。俺は千春の耳元で囁いた。 「ね、ここ、もうキレイになった?」  千春が、唇を引き結んだ顔のまま、ウンと頷く。 「オリーブオイル・・・、役に立ちそう?」  ソコをゆっくり愛撫しながら、俺は訊く。またも千春は頷く。  俺は、千春の肩や首に口づけながら、指を抜き差しする。 「ハッ・・・あ・・・・、シノさん・・・」 「指でも、感じる?」 「ええ・・・。指、増やして・・・」 「何本?」 「始めは二本にして・・・、その後、三本・・・」 「そんなに入れて、大丈夫?」  千春は、笑った。  よかった。千春、笑ってくれた。 「だって、シノさんの、それより太いんですよ?」  そう言われて、今度は俺の顔が赤くなる。  何だか、俺が飢え切ってるような気がして。  その後、千春に導かれるまま、彼を愛撫した。  時折、俺の背中にまわした千春の手が、俺の背中に爪を立てるのを感じて、俺の股間が熱くなる。  千春に触られてる訳じゃないのに、そこはもう勃ちっぱなしだ。 「あぁ・・・、シノさん、我慢できない・・・。もう入れて」  俺は周囲を見回した。  ここじゃ、狭過ぎる。 「ベッド、行こう・・・」  俺がそう言うと、千春はコクリと頷いた。         ── ああ、もう、本当にカワイイ。  まるでその目は、いつかアルバムで見た、幼い頃の千春のそれのようで。  クールで美人なのに、カワイイって、それ最強だろ。  俺は、右手でオイルの瓶を手に取って、左手で千春の手を掴むと、寝室に戻った。  千春をベッドに押し倒す。 「あ! シノさん、バスタオル敷いて。ベッドが汚れるから」  俺は、ベッドの片隅でくしゃくしゃになっていたバスタオルを千春の身体の下に敷いた。 「シノさん、クッション、ある・・・?」 「クッション? ない。枕がある」 「枕か・・・」 「どうするの?」 「腰の下に敷きたいんです。その方が、シノさんが入れやすくなるから・・・」  俺は、床に転がっていた枕を引っ掴んで、千春の腰の下に入れた。 「シノさん、枕、使えなくなる!」 「いいよ。枕より、今セックスすることの方が、大事」  千春はフフフと笑って、俺の鼻筋を指で辿った。 「 ── じゃ、新しい枕は、僕が買いますね」 「うん」  俺は、指にまたオイルをつけて、ソコを優しく揉んだ。  そこはもう緩くなって、指をするりと飲み込み、そしてきゅっと締め付けた。  俺はゴクリと喉を鳴らす。 「もう大丈夫・・・。シノさん、きて・・・」  俺は余ったオイルを俺のペニスに塗って、二、三回扱くと、ソコに押し付けた。 「・・・ハッ・・・」  千春が息を吐き出す。  俺はゆっくりと突き入れた。 「・・・あッ・・・、あぁー・・・・」  千春の身体がのけぞる。  俺は千春の身体を抱き締め、奥まで身体を進めると、そのまま身体の動きを止めた。  凄い。  コンドームつけた時とは全然感触が違う。  なんかダイレクトに千春の中が吸い付いてくる感じ・・・。  うぁぁ。こんなの、良過ぎるよ。  千春の荒い吐息が耳にかかる。 「あぁ・・・・凄い、シノさん・・・大きいよ・・・」  千春が囁く。  初めての時とは違って、まるでうわごとのような、余裕のない声だった。  俺は千春がいいって言うまで動くつもりはなかったから、千春を抱き締めたまま、彼の髪や額にキスを落とした。  俺の身体にしがみついていた千春が、やがてブルブルと震え出す。  俺を締め付ける千春の中も、まるで痙攣するように俺を締め付けたり擦ったりしてきて。  それだけで俺はもう、相当気持ちよかった。 「アぁ・・・・、千春・・・。気持ち、いい・・・」  俺が耳元で思わずそう呟くと、千春の身体がブルリと震えた。 「アッ、あああっ!! ヤダ! 僕・・・、こんな・・・!! あぁああああっ!」  ビクビクと千春の身体が跳ねる。  お腹に湿った感触がして身体を起こすと、白く濁った、濃度の薄い液体が千春のペニスから溢れ出てきた。  あまりに千春が物凄い声を出してイッたみたいなんで、俺は思わず「だ、大丈夫?」と訊いた。  千春は、目からボロボロと涙を零しながら、俺を見上げてくる。 「ん~~~~~~」  錯乱しているような様子の千春は、口を尖らせて、まるで子どものように泣きべそをかいた。  俺が髪を撫でると、それにも感じるみたいでビクリビクリと身体を震わせる。 「千春、ホントに大丈夫? やめる?」  なんだかキツそうだったんで俺がそう訊くと、千春は首を横に振る。  千春が俺の手を引いて、身体を引き寄せる。  俺は素直に、千春の腕に収まった。  千春は、まだ肩で息をしていた。 「 ── これって・・・。多分、僕、初めてです。こんなになるの・・・」 「こんなのって?」 「ドライオーガズムと普通のオーガズムが一緒に来る感じ・・・。ペニスを触られなくても、イッちゃう感じ・・・。多分、そこに出てるの、精液っていうより・・・」  千春が、身体の合間に手を差し込んで確認する。 「・・・やっぱり、そうだ。前立腺液ですね、多分。あぁ・・・、抱いた相手をこうさせたことはあるけど、まさか自分がそうなる日が来るなんて・・・」 「滅多に、ならないの?」 「シノさんだって、無理だって思うでしょ? アソコに触らずに、イクんですよ?」 「 ── 確かに」 「人によると思いますけど、少なくとも僕は、抱かれた時にこうなった経験はありません。 ── シノさん、凄いや。セックスするの、二回目なのにね」  千春が苦笑いする。 「なぁ、これって、気持ちも関係あるの?」 「え?」 「相手のこと、凄く好きだったら、なりやすいとか」  俺が訊くと、千春はしばらく俺を見つめて、ウンと頷いた。 「多分、多いに関係あると思います」  俺は微笑んだ。 「じゃ、千春がそれだけ俺のこと、好きでいてくれてるって証拠だ」  千春が、俺の頬を撫でる。 「 ── シノさん、突いて」 「大丈夫?」 「話しているうちに、少し休めたから。でも、一度こういう状態に陥ると、後もずっと続くから、僕、ちょっとおかしくなるかも・・・。声、大きくてごめんね、シノさん」 「それがいいんじゃないか!」  俺はそう断言すると、腰を使った。 「アッ! あぁ!!」  千春がのけぞる。 「やっ、ぱ・・・、ちょっと、凄い・・・!!」  千春が、喘ぐ。  凄くキレイだ、千春。  涙に潤んだ瞳も、ピンクに染まった頬も、浮き上がった首筋のラインも、全部が飾り気のない素の千春の表情そのものだったけれど、その全部が最高に美しかった。 「シノさん・・・、シノさん・・・」  千春が、俺の名を呼びながら、縋り付いてくる。    ── ああ、俺、本当に幸せだ・・・。  俺は次第に強く腰を動かした。  朦朧とした表情の千春が、俺の手を握ろうとしてくる。  俺は両手をしっかりと握り合わせ、それを千春の顔の横に押さえつけると、更に腰を動かした。 「ぁあー・・・、あ、は・・・、ハッ・・・・!!」 「アァ・・・あっ・・・!」  互いの喘ぎ声が混ざる。 「シノさん・・・、愛してる、愛してる・・・」  千春がそう囁いた後、また身体を震わせる。  俺は力一杯千春の身体を抱き締めた。  そのまま、快感の渦に巻き込まれるように、俺の背筋に電流が走る。  一瞬、息が止まった。 「ヤバい・・・っ、イキそう」  切羽詰まって呟いた俺が腰を引こうとすると、千春の長い足が俺の身体に絡んで、それ以上身体を引けなかった。  もう我慢できなくなって、そのまま俺はイッてしまった。  俺がイッてる間、うつろな顔つきの千春は、それでも力強く俺を抱き締めていた。ずっと。  イキきって正気に戻ると、俺は冷や汗をかいた。 「ご、ごめん・・・」  思わず呟く。  だって俺、千春の中に出してしまった。  これって、大丈夫じゃないんだよな?  俺が慌てて身体を引こうとすると、凄い力で腕を掴まれた。 「ヤダッ! やめないで!! もっと・・・」 「でも千春・・・」 「大丈夫・・・、僕は大丈夫だから・・・。もっとして・・・」  千春の甘えた声。  本当に大丈夫なのか? 千春。  それに俺、一回出してしまったから、復活するまでできないよ。  俺がそう言うと、千春の瞳に少し正気が戻ってきて、彼はペロリと唇を舐めた。 「 ── 大丈夫、シノさん。任せて」 「任せてって・・・。この体勢でどうするつもり・・・」  千春は、自分の右手の中指をゆっくりと舐めた。  そしてその手をするすると俺の背中に滑らせ、腰の谷間を辿って行くのが肌の感触でわかった。 「・・・千春?」  千春の意図がわからなかったが、次の瞬間ぎょっとした。  俺のソコ・・・つ、つまりお尻の穴を千春の指が撫でたのだ。 「ちょっ、千春!?」  身体を引こうとしたが、俺の身体に巻き付いた千春の足がそれを許さない。 「シノさんだって、風呂場で僕にしてくれたでしょ?」  千春が小首を傾げる。  いやっ、だってそれは、千春の場合、準備が必要だと思ったからしたことで!!  そう思っているうちにも、ソコを優しくマッサージされる。  なんだかムズ痒いというか・・・変な気分になってきて、俺は思わず「うぁ・・・」と声を漏らしてしまう。 「・・・堅くなってきたね、シノさん」  千春が呟く。  確かに、そうだけど・・・。分かるのか?! 千春!! 「・・・ちょっと・・・千春・・・、ああ、変な感じだ・・・」  俺が首を横に振ると、顎にキスをされる。 「よかった、シノさん。ここでも感じられる人っぽくて」   ── かっ、感じられる人?!  俺が余裕のない顔をして千春を見ると、千春は「なかには、ここに性感がない人もいるからね」と呟く。  指が入ってくる。  思わず「あっ」と声が溢れる。 「千春、ヤダよ。恥ずかしい・・・汚いよ」 「入口だけだから・・・。深くは入れないから、大丈夫・・・」  千春が言う通り、指はほんの少し入ったと思ったら、すぐに出て行く。  でも、こんなところで感じてしまうなんて、セックスするの二回目なのに、いいのかな、俺。 「ああ、ダメダメ。シノさん、力抜いて」 「でも・・・」 「シノさん、僕を信じて・・・」  そう言われてハッとした。   ── そうだよな、千春。ごめん・・・。  千春は俺にすべてを許してくれてるのに、少しソコを触られただけで警戒するのなんて、ダメだよな。  俺は千春の胸元に顔を埋めた。  息を吐いて、身体の力を抜く。 「そう・・・。シノさん、いいよ・・・」  ソコを愛撫されて、俺の身体が時折自分の身体じゃないみたいに、ピクリと跳ねる。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・、ぁ・・・」  千春が、俺の髪に何度もキスを落とす。  千春が言うように、俺のは千春の中でどんどん熱くなり、俺は堪らなくなってまた腰を動かした。 「あ!」  千春が声を上げる。 「シノさん・・・!」  千春が愛撫をやめ、俺の背中に両腕をまわす。  最初の時より随分滑らかな感じがして、更に奥まで届いているような気がする。  やがてソコから濡れた音が聞こえてきて、俺は一旦身体を起こした。千春の手が名残惜しそうに俺の腕を撫でる。  俺は、俺達が繋がってる部分を見て、頬がカッと熱くなった。  千春が、「どうしたの?」と訊いてきたが、ちょっと目の前の光景の刺激が強過ぎて、どう答えていいか臆してしまった。  千春の視線が少し泳いで。「 ── そうか・・・」と呟く。 「シノさんが出したものが・・・溢れてる?」  俺はウンウンと頷いた。 「・・・ア・・・、うん・・・、分かった。今・・・伝ってるでしょ・・・」  俺はまたウンと頷く。  うわぁ、エロ過ぎる、これ。 「あっ、あぁ・・・。シノさん、あんまり、見ないでよ」  千春が拗ねたように言う。  千春の顔を見ると、千春の頬も上気したのとは別の意味で朱に染まっていた。  俺はまた千春に身体を添わせる。 「 ── 恥ずかしい?」  千春が頷く。  ああ、千春。カワイイ。凄く、可愛い。  俺は、自分の出したものの滑りに任せて、腰を使った。 「ぁあ! シノさん、深いよ・・・」  千春が声を上げる。  俺は目の前で震えてる千春のものを手で包んだ。腰の動きに合わせるように、ソコを扱く。 「や! あぁ!」  敏感になっているのか、千春の身体が跳ねる。  凄く熱いよ千春。全部が熱い。 「シノさん、そんなにしたら・・・、ぼく、おかしく、なる・・・!」  千春が、シーツをかき乱す。  軋むベッドの音。  二人の息づかい。  全てが俺にとって、特別だと思えて。  千春が涙を零しながら俺を見つめて、俺もじっと千春を見つめた。  俺は何も言わなかったけど、千春は察してくれたのか、朦朧とした顔つきでもウンと頷いてくれた。  きっと「シノさんの気持ち、分かってる」って思ってくれたんだ。   ── ああ、千春。好きだよ。こんなに愛してる・・・・。  今まで誰も愛してきたことのない俺に、こんな素晴らしい気持ちをくれて、本当にありがとう。  俺は千春をギュッと抱き締めた。 「シノさん・・・」  千春が俺の胸元に顔を埋める。  俺は再び千春のモノを愛撫しながら、更に千春を責め立てた。 「・・・アッ・・・もう、ダメ・・・!!!」  千春がイッたのが分かった。  最後はもう、声も出ない感じに。  俺もそんな千春に思いっきり締め付けられて、そのままイッてしまった。  ハァハァと二人揃って肩で息をしながら、長いキスを交わす。  そのまま抜かずに二回目をして、さすがに二人とも、クタクタになった。  だって、一回一回が濃厚過ぎる。  終わった後、汗でべちゃべちゃな身体のまま、千春の身体を俺の上に乗せて、ベッドに寝っ転がった。  こうしないと、大柄な俺達二人は、ベッドから落ちてしまう。 「 ── ハァ・・・。僕、完全にネコのよさに目覚めちゃったかも・・・」  俺の胸元で千春が呟いた。 「よかった?」  俺が訊くと、千春は苦笑いした。 「よかった、なんてものじゃないですよ。まだ頭がくらくらしてる・・・。シノさん、明日土曜日でよかったですね」 「え? あ、そうか。休みだ」 「前回も昼間まで爆睡してたから・・・。あ~ぁ、ほら、やっぱり髪、ここだけカピカピになってる」  千春が、俺の髪を摘んだ。  そこは、千春のがついちゃったところだ。  俺は、イシシと笑う。 「ま、いいじゃん。明日休みなんだしさ。今日はこのまま寝ちゃおうよ」 「ダメダメ、シノさん。眠たくてもお風呂入って。生でしちゃったから、ばい菌が身体の中に入るかもしれないし。それに僕もお風呂で中のものを出さなきゃ・・・」  それを訊いて、俺は改めて顔が熱くなる。  そ、そうか。俺、そのまま出してしまったから・・・。 「千春、ごめんな」  汗で濡れた千春の髪を撫でる。千春は、少年っぽいあどけない微笑みを浮かべ、首を横に振った。 「僕が望んだことだもの。今まで中出しされるのは辛いだけだったけど、今日その快感を知った」  千春がハハハと笑う。  俺もつられて笑顔を浮かべた。 「風呂、一緒に入れたらいいのになぁ」  俺がそう呟くと、途端に千春が顔を顰める。 「そんなの、無理に決まってるでしょう。あんな狭い風呂で、どうやっても無理です」 「恋人と一緒に風呂入るのなんて、男のロマンだもんなぁ」 「我が儘、言わないの」  俺は唇を尖らせた。   ── やっぱこの部屋、男同士で恋人するのには狭いんだよな。 「なぁ、千春?」 「ん?」 「今月末の連休、行こうな、温泉」 「だから、シノさん・・・」  千春は俺の言うことをいつかみたいに否定しようとしたが、俺の顔を見て口を噤んだ。  だって、俺がマジな顔をしていたから。  千春は、可愛く微笑んで、「そうですね。行きましょう、温泉」と呟いたのだった。 エピローグ  小さなアルファロメオが、栃木に向かう高速道路をひた走る。  春の爽やかな風が、俺の髪を揺らした。  高速道路は都心を出るまでは混んでいたけれど、いくつかのサービスエリアをやり過ごす頃には、車列は順調に流れ始めた。  左に目をやるとサングラスをかけた千春が、リラックスした様子でハンドルを握っている。  ホント、付き合ってる俺がこう言うのは、単なるお惚気にしか聞こえないと思うけど。   ── カッコいいんだよなぁ、どんなシーンを切り取ってもさ。 「けど、シノさんよかったんですか? 塩の湯温泉で。柿谷酒造の方達にも、変な噂が届くかもしれないのに」  再び、窓の外から吹き付ける風を顔に受けながら景色に目をやる俺に、千春が声をかけてくる。 「変な噂って?」  俺が風景を見たままそう訊き返すと、千春は答えない。  俺が千春を見ると、気まずそうに千春が口ごもっていた。  その表情、何を考えてるか分かるぞ。 「 ── 俺が、男好きっていう噂?」  俺がそう指摘すると、千春が溜息をついて、頷いた。  俺は腕を組んで、助手席のシートに身体を沈めた。 「ま、確かに、俺自身本当に“男好き”かどうか、分かんないけどさ。少なくとも千春を好きなのは確かなんだし。千春は男だから、この際、“男好き”ってことになっても、いいんじゃないか?」  俺がそう言うと、千春はハハハと声を出して笑った。 「なに、その理論」 「だってそうだろ?」 「そうですかね」 「ああ。大事なのは、愛こそ、すべて・・・てね」  俺がそう言って千春を見ると、千春が横顔がパァッと赤くなった。  俺はそれを指差すと、いつものお返しとばかりに、一頻りハハハハと高笑いしたのだった。 All You Need is Love end. ── 千春の鎧は鉄壁でしたが、シノさんの情熱で無事壊すことができました。あとはラブラブまっしぐら! たくさんの方々にこの二人をご愛顧いただき、嬉しい限りです。ありがとうございました。(国沢)
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