2958人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
act.24
<side-SHINO>
千春の『提案』があったその週末。
俺は図らずも、葵さんという女性とデートをすることになってしまった。
早めについてしまった待ち合わせのカフェでコーヒーを飲みながら、俺はぼんやりとあの夜のことを思い出していた。
千春が、「葵さんとデートしてくれ」と言い出した、あの夜。
あの夜の千春は、なんだか凄く必死だった。
いつも超然としてる千春とは全然違ってて。
ふいに動きを止めた千春を不思議に思って振り返ると、まるで泣き出しそうな顔をした千春がいて、俺は急に不安になったんだ。
どうしてそんな顔をするのか、俺には分からなかったから・・・。
俺は、どうすればいいんだろう。
なぁ、千春。俺はどうすればいい?
千春が悲しむ顔は見たくないのに、俺は時々彼にそんな表情をさせてしまう。
── 本当に、出来が悪い生徒でごめんな、千春。俺は千春に迷惑をかけてばっかりだ。
千春が、俺の背中を優しく擦ってくれてる間、俺は本当に夢見心地で。
パジャマ越しだったけど、千春の体温がゆっくり背中から染み渡ってきて、内心俺は涙が出そうになっていたんだ。
俺が世界で独りぼっちなんかじゃなく、少なくともこの瞬間は千春が一緒にいてくれて、俺のことを考えてくれているんだと実感できたから。
こんな風にして人に触れられることが、これほど心地いいなんて、俺は知らなかった。
これまで人と肌を併せるのはもちろん、マッサージとかもしてもらった経験はなかったから、本当に初めてだったんだ。
── ずっとこうして触れていてほしいと思っていた矢先、千春の手が止まって。
彼は俺に、こう言った。
『僕が最も信頼を置いている女性となら、してみようと思いますか?』
はっきり言って、俺は葵さんと待ち合わせをしている今も、迷っていた。・・・迷っているというのは、ちょっと違うな。はっきりと分からないという方が近いだろうか。
「僕のために」と千春に言われたから反射的に頷いたけど、葵さんと果たしてそんなことができるのかどうか、全く確信が持てなかった。
でもまた今回もダメだったら、千春の期待を二度も裏切ることになるし、そうなったら、千春がまた悲しげな顔をするのかなと思ったら、それも辛いなぁと思ったりもして。
── ああ、俺、ホントどうしたらいいんだろう。
千春のことは困らせたくないのに、千春の期待に応える自信が全くないなんて。
そんなことをツラツラと考えていたら、ふいに目の前に女性が立っていることに、遅まきながら気がついた。
俺が顔を上げると、まるで美しい菩薩様のような微笑みを浮かべた女性が立っていた。
女性を仏像に似てるって思うなんて絶対変だと思うけど、俺にはそう見えたんだ。
「ジムに来なくなってから随分経つけど、凄く男前に変身してる」
女性 ── 葵さんはフフフと笑って、向かいに腰をかけた。
長い髪をタイトに後ろで一纏めにして、アジアンチックで暖色系のロングワンピースに同色系の大振りなストールを上手に巻き付けた葵さんは、千春に負けず劣らず、周囲の視線を一瞬で集めてしまうような華のあるエキゾチックな姿で。本当に美しい女性だと思った。
前に、ジムで千春から葵さんのことを紹介された時は、「僕は彼女以上にセクシーな女性を見たことがない」と千春が言っていた通り、健康的なフェロモンムンムンのイメージだったが、今日の彼女はまったくそんな雰囲気は感じなかった。
なぜだろう。とても不思議だった。
「久しぶりね、篠田さん。シノくんって呼んでいいかしら? 成澤くんもそう呼んでるでしょ?」
「ええ」
「あ、すみません! オレンジジュースください」
美しい容姿とは裏腹に、サバサバとした口調で注文をする葵さんを見て、思わず俺はフフッと笑ってしまう。
「何かおかしかった?」
葵さんが小首を傾げる。
俺は肩を竦めた。
「サバサバしてるなぁと思って」
葵さんも俺と同じように笑って、「よく友達からは、お前は黙っておけば完璧な美人なのにと言われるわ」と言った。
「そうなんですか? そのままでも充分美人だと思いますけど」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。あなた、成澤くんが心配してるほど、女の人としゃべれない訳じゃないのね」
葵さんからそう言われ、俺はそこで初めて気がついた。
── そうだ。俺、葵さんとほぼ初めてまともに顔をあわせている状態なのに、変に緊張もせず話せている。
俺自身、凄く驚いた。
「なんでだろ?」
思わず俺は呟いた。
葵さんは、そんな俺を横目で見ながら、今来たばかりのオレンジジュースにストローを差し込み、ジューッと吸った。
葵さんのそんなワイルドで飾らない仕草もとても魅力的だと思うのに、俺はどうしてアガらずに葵さんと話せているのかが、本当に分からなかった。なんで、自分がこんなにも落ち着いているのか。
「前世は、姉弟だったかもしれないわねぇ」
ふいに葵さんがそう呟いて、一瞬聞き取れなかった俺は、「え?」と訊き返した。
葵さんは、またあの菩薩様のような微笑みを浮かべると、「どうする? 食事しに行く? それともすぐにホテルに行く?」と言った。
さすがに落ち着いているとは言っても、「ホテル」と聞いて、俺の心臓は跳ね上がった。
「え、ええと・・・」
俺がコーヒーカップを触りながらドギマギしていると、その手にすっと触れられて、「やっぱりホテル、行きましょう!」と元気よく言われた。
この展開は、あのクラブでの夜とほぼ同じだったが、不思議とあの時のような嫌悪感は全く感じなかった。
葵さんはさっさと席を立つと、伝票を持ってレジに行ってしまう。
「あ! あぁ、葵さん! 支払い、俺がしますよ」
俺が腰のポケットから慌てて財布を出すと、葵さんは俺を振り返って、「じゃ、割り勘にしようよ」と言った。
「え? あ・・・」
「私、オレンジジュース」
俺がモタモタしている間に、葵さんがさっさと自分の分の支払いを済ませてしまう。
俺もつられて、自分の分の支払いを済ませると、葵さんに腕を取られ、店を出た。
── うわ、女性に腕を組まれるのなんて初めての経験だ。
それでもなお、俺の全身からは変な汗が出てこないのは、本当になぜだろう。
すれ違って行く周囲の人達が、俺と葵さんを仕切りと見ていく。
やっぱり葵さん、千春と同じで凄く目立つんだ。
葵さんはフフフと笑いながら、「余は満足じゃ」と言う。
「え?」
葵さんを見下ろすと、葵さんがまるで少女のような顔つきで俺を見た。
「女の子達が、凄く羨ましそうに私のこと見ていくから。優越感ってやつよ」
「え、そうなんですか? なんで?」
俺がそう訊くと、葵さんはふと足を止め、俺をマジマジと見つめた後、アハハハハと大きな口を開けて笑った。
「凄い! 成澤くんから聞いていたけど、本当に鈍感!!!」
バシバシと背中を叩かれ、俺はゴホンと咳き込んだ。
「シノくん、おもしろい!!」
また葵さんに腕を取られ、歩き出す。
「俺、そんなに鈍感ですか・・・」
俺が首を項垂れ気味にしてそう訊くと、「そんなにがっかりしない! 君のKYぶりはもはやそれ、魅力だから」と言われた。
「え~・・・。そんなの、魅力になりますかね・・・」
「だって、そこまでKYで愛されキャラなんて、世界中探しても、そうそういないと思うわよ」
凄い勢いで俺、KYって連呼されてる・・・(汗)。
俺は、あ~・・・と息を吐きながら、おでこを右手で擦った。
「ほらほら、元気出して! 男前が台無しだから!」
また背中を叩かれた。
葵さん、まるで部活か何かのマネージャーのようだよ・・・。
葵さんに連れられて入ったのは、予想に反して普通のホテルだった。
普通のホテルと言っても、外資系の洗練された高級ホテルだ。
「空いてる部屋があるかどうか訊いてくるから、ここで待ってて」
ロビーのソファーがあるところでそう言われ、俺は手持ち無沙汰になって取り敢えず椅子に座った。
── 俺、このまま本当に葵さんとしちゃうのかな。
まるでそんな感じがしてないっていうのは、きっと問題だよな。きっと葵さんにも失礼だし。でも、こればっかりは・・・。
そう思っていたら、葵さんが戻ってきた。
「いい部屋が空いてたわ。凄くラッキー。私たち、ツイてるかもよ」
葵さんに連れられて入った部屋は、俺がいつも出張で泊まるような、入ったらすぐベッドっていう部屋じゃなく、どこかのお金持ちの別荘のような部屋だった。
「あー、見て見て、皇居が見える」
大きく開いた窓から外を眺めると、秋から冬に装いを変える落ち葉に包まれた美しい風景が広がっていた。
「俺、こんな部屋来るの、初めてです」
「そ? じゃ、お部屋、探検してみる?」
そう言われて、俺は頷いた。
何だか、ちょっと楽しい。
「うわ! 風呂、すげぇ!!」
家の風呂とは比べものにならないくらい広い。
「アメニティーも充実してるわねぇ」
葵さんは、鏡の前で小物のチェックをしている。
部屋にはなんとミニバーまであって、質のいいお酒のミニボトルが美しく並べてあった。
「あ~・・・、みんな、幸せそうだ」
俺は思わずそう呟いた。
いつかのクラブで、雑然と並べられたボトルたちのことを思い起こすと、小さくてもそこにはお酒の威厳がきちんと保たれているような気がして、俺はちょっと胸が熱くなってしまった。
葵さんが、俺の顔を下から覗き込む。
「シノくん、お酒屋さんに勤めてるんだっけ?」
「ええ。正確には、卸売業者ですけど」
「お酒のことを大事に思ってるのね。そういうの、素敵よ」
葵さんにそう言われ、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「ね、ベッドルームに行こうよ」
俺は再び葵さんに腕を取られ、ベッッドルームまで連れて行かれる。
ああ、心臓が口から飛び出しそうだ。
葵さんが、ベッドルームの扉を開いて、俺を中に誘う。
俺は、部屋の中に入って室内の様子を見て、「あっ」と声を上げたのだった。
部屋の中には、ベッドが二つあった。
ようするに、ツインの部屋だった。
── これって・・・・
俺が葵さんを見ると、葵さんはまた菩薩様のような微笑みを浮かべ、「シノくん、はなからセックスするつもり、なかったんでしょ、今日」と言った。
「実は私も、そんなつもり全然なかったのよ。じゃなきゃ、こんなお色気感ゼロの服なんて着てこないもの」
彼女はそう言って、肩を竦めた。
俺は、ああ、と思った。
だからなのか。
俺が葵さんに性的なものを感じなかったのは、葵さんがそういう風に見えるように、わざとそういう装いをしていたからだと思った。
「言っとくけど今日、化粧もしてないんだからね、私」
「え? すっぴんなんですか?!」
「そうよ? 見て分からない?」
「分かりません」
俺達は顔を見合わせると、同時に爆笑した。
そのまま笑いながら、リビングに戻る。
二人並んでソファーに座ると、葵さんはローテーブルの上に置いてあったメニューを手に取った。
「ね、ルームサービス頼んじゃおうよ。今日は成澤くんから軍資金ぶんどってきてるから、おいしいの、どんどん食べちゃおう」
俺は、メニューに見入る葵さんを見つめた。
やがて葵さんが視線に気がついて、俺を見る。
俺は訊いた。
「はなからその気がなかったのに、今日来てくれたのは、なぜですか?」
葵さんはメニューを膝に置くと、「成澤くんの申し出を受けたのは、彼を傷つけたくなかったから。シノくんをホテルに連れてきたのは、外野に邪魔されず、あなたとゆっくり話したかったから」と言った。
「俺と?」
俺が訊き返すと、葵さんは頷いた。
「正直、あの成澤千春をここまで翻弄している男がどんなヤツか、知りたいって気持ちもあったしね」
「お、俺、千春を翻弄してるんですか?」
「してるわよぉ! 分からない?」
「分かりません」
「潔よ過ぎる返事で、逆に気持ちいいわ」
あ、ちょっと俺、呆れられた(汗)。
だって俺、まさかそんなに千春を振り回してるだなんて思ってなかったから・・・。
葵さんが、俺の方に身体を向ける。
葵さん、ちょっとマジな顔だ。
俺も姿勢を正した。
葵さんが俺の両手を握る。
「成澤くんはね、本当はとても脆い子なの。もちろん凄くしっかりしてんるんだけど、好きでそんな風になった訳じゃない。彼は、子どもでいることを許されなかった環境で育ってきた。だから、自分が傷ついてても、それをなかったことにしてしまう。 ── そういうの、辛いでしょ?」
俺は、なんて答えていいか分からなくって、唇を噛み締めた。
葵さんが、苦笑いする。
「あなたと成澤くんは、とてもよく似てるわ。成澤くんは、あなたのことを『人の前じゃ、決して弱音を吐かない人』って言ってたけど、成澤くんもそう。・・・でも彼の場合は、弱音を『吐かない』じゃなくて、『吐けない』のかも。その方法が分からないのね、きっと」
俺は、千春の顔を思い浮かべた。
いつだって千春は、弱々しい台詞なんてこれっぽっちも言ったことはないけど、時折見せる頼りなげな表情は、つまり千春の『脆さ』だったんだろうか。
「成澤くんは、あなたのことをとても大切に思ってる。あなたに出会ってから、あなたのことだけを考えてるわ、いつも。彼がそんな風になったのは、彼が17歳の頃、大学の先生と付き合った時以来」
「大学の先生と?」
「そう。彼は今でも、その時の恋愛で負った傷を引きずってる。最後に裏切られた形で別れたからね」
俺は、葵さんからその時の経緯を聞いた。
千春が初めて人を信頼して、好きになって、すべてを捧げたのに、相手の人は上司の娘と結婚して、海外に旅立ってしまっただなんて。
その時の千春の悲しみたるや、如何ばかりかと思う。
「でもね、成澤くんは、泣かなかった。そんな仕打ちをされても、彼は泣かなかったのよ」
俺は、ハッとして葵さんを見つめた。
「なぜですか?」
「泣き方が分からないんだって」
俺は、息をとめた。
── 泣き方が、分からない、だって?
俺は顔を顰めた。
それは、なんだかとてもショックな一言だったから。
大体、子どもだって泣き方ぐらい分かってるぞ。
それってつまり、悲しいことや苦しいことを吐き出すことができないってことなのか?
── そんなの・・・。どうしてそんな風になってしまったんだ・・・。
俺は視線を左右に泳がせた。
葵さんが、ちょっと困った顔をして、俺の目尻を親指で擦る。
「フフフ。シノくんが代わりに泣いてあげてる」
俺は慌てて、ジャケットの袖で両目を擦った。
「だって、泣き方が分からないなんて・・・そんな・・・」
「だからきっと、今でもあの時の気持ちを消化できずにいるんだろうね。心の奥底に蓋をして、本心を誰にも見せなくなった。感情を押し殺して、サイボーグのようになってしまった。そうして作られた心の鎧は、彼自身どうしていいか分からないくらい、分厚くなっちゃったの。でも、あなたが現れてから、彼は変わった」
俺は再び葵さんを見た。
葵さんが、俺の頬を撫でる。
「あなたは、成澤くんの救世主よ。あなたが、あの子の鎧を壊そうとしている。だって、あなたと知り合ってからの彼は、まるで子どもみたいなんだもの。あなたの行動や反応に一喜一憂して、私の前で机につっぷして。これまでの成澤千春なら、絶対に他人には見せてなかった姿。あなたは特別なの、彼にとって」
── 俺が・・・千春にとって特別な存在?
思いも寄らなかった言葉だった。
俺が、千春に取って特別だなんて。
何だか、顔がカッカする・・・。
急に心臓がバクバクしてきた。
「まったく、本当は他の誰にもシノくんに触れさせたくないって思ってるくせに、この私に『シノくんと寝てくれ』って、あいつ世界一のバカだと思うんだけど」
「他の誰にも触れさせたくないって・・・、それって・・・」
「本当なら、自分がシノくんの最初の相手になりたいって思ってるんじゃないの? でもほら、あなた、女の子が好きな人だから」
俺はそれを聞いて、口を噤んだ。
なんと言っていいか、本当に分からなくて。
「こればっかりは本能的なものだから、ダメな人はダメだし。無理強いさせられるものでもないしね」
「でも、千春はなんで、男の人を・・・、なんですか?」
「彼の場合は、生まれた時からそうなのよ。好みの問題じゃなくて、『自然に』そうなの。彼はそれを『標準装備』って言ってたけど。なかなかうまいこと言うわよね。さすが、売れっ子作家」
葵さんは、ハハハと笑う。
「あ、そうそう。今日の記念に、これ、プレゼント」
葵さんは、インドテイストな肩掛けカバンから雑誌を取り出した。
「女性誌だからさ、それ。シノくんには買いづらいと思って」
表紙に写っていたのは、千春だった。
モノクロで、白いシャツを着た千春の写真。
ちょっと切なげな、ここ最近俺がよく見る、千春の表情。
「何ページも特集されてるから。ここ最近では、凄く扱いが大きいわ。しかも、ヌード写真なんてね」
「ヌード?!」
俺は思わず叫んでしまった。
「ああ、大丈夫。きわどいところは、ちゃんと見えないようにカットされてる・・・」
葵さんが何か言っていたが、ろくすっぽ耳に入らず、俺は物凄い勢いでページを捲った。
すべてモノクロの写真だった。
白いシャツを着た写真が数枚続いた後、上半身裸の千春が、身体を正面に向けて立っている写真が出てきた。
視線は斜め下を向いていているが、千春の信じられないくらいに綺麗な身体が、真正面から捉えられていた。
腰のギリギリの位置で写真はカットされているが、明らかに下着まで脱いでるのがわかった。
次の写真は、背中を撮影したもの。
横顔から、首、背中、腰と流れるような筋肉のラインが照明に優しく浮き上がっている。
文字が一切載ってない、写真だけ淡々と掲載された誌面。
女性誌というより、まるで上質の写真集のようだ。
他にも胎児のように身体を丸めている写真や、ぼんやりと膝を抱えて座っている写真もあって、千春の全身のラインがはっきりとわかる写真も数多くあった。
男の身体なんて、日頃自分ので見飽きるほど見てるのに、千春のこの写真は・・・。
なんて・・・なんて美しい身体。
それなのに、表情はどこか頼りなげで、苦しげで。
「このラストの写真なんて、最高に切なくて、でも最高にセクシーよね」
葵さんが、写真を指差して、そう言う。
乱れた前髪の向こうから、泣きそうな瞳でこちらを見ている千春。ちょっと上向きの顎、半開きの口。伸びやかな首筋。
それは上半身だけのバストカットで、特にセクシーなポーズをとっている訳でも何でもなかったけど。
── シノさん・・・
ふいに耳元で千春にそう囁かれたような気がして。
俺はガバッと立ち上がると、慌ててベッドルームに駆け込んで、ドアを閉めた。
はぁ、はぁと肩で息をする。
心臓のドキドキが、あそこでもドキドキし始めて。
俺・・・・、俺・・・・。
どうしよう、千春。
ホント、どうしよう・・・。
最初のコメントを投稿しよう!