湘南金神変(こんじんへん)

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 湘南市は千葉県の東京湾側にある。江ノ島の界隈が湘南海岸として知られるが、行政地名的には、これは間違いではない。  もっとも、多くの人はウイングシティという名しか知らないというのが実際で、手紙もウイングシティで十分通じるのが、市の役人にとってはいささか残念なところであった。  しかし、壇ノ浦法一は多少意見が異なる。彼の場合は、彼の職業柄、あまり湘南市が有名になることは望んでいないのだ。彼は、湘南市警察署の署長なのである。  東京湾西岸の東京都の発展に取り残された形だった東岸、アクアラインの成立を機に、その出口を中心に、左右に広がる噴水・・鳥の両翼のように生まれた新興都市群が通称”ウイングシティ”なのである。  それはまさに洪水のような発展の仕方であり、その建設利権に群がるハエや蛆虫どもで、”ウイングシティ”はどこも程度の差こそあれ、極悪犯罪の巣窟になっている。彼の管轄の湘南市も、そういうことなのである。”治安最低の都市”として、知られるのは、正直ありがたくないのだ。  特に集中しているとは思いたくないが、アクアラインの千葉県側出口に近いこともあってか、最近の湘南市の犯罪率、治安の悪化は、彼の経験からして、異常というしかなかった。  本庁で敏腕刑事だった東美惠子がやりすぎで左遷されたのを聞き及び、湘南署で引き取ったのだが・・ミニパトのお姉さんで彼女もがんばっているのだが、いかんせん、それでも防ぎきれないほどの急増状態になってしまった。こればかりは、想定外だったというしかない。  しかも、面妖な、というしかない不可解事件もあとを絶たず、この市一番のパワースポットである息吹戸神社の巫女じゃないが”この市は呪われている”の言葉に、思わずうなづきそうになっている壇ノ浦だった。  昔が良かったという人間は少ないが、それでもその巫女が言うには、東京湾のおかげで、西岸の”闇”がそこで足踏みしていたのが、アクアラインでこの東岸にまで雪崩れ込んできたというのが納得できる。  ”闇”だ”呪い”など、うんざりごめんの壇ノ浦だが、確かに西岸の悪の組織ってのが、新たな新天地を求めて退去して押し寄せてきたというのであれば、まさに”そのとおり”というものではないか。  その昔、ちょっとした話題になったハリウッドの”太陽の戦士”という映画を、なんとなく思い出す。あれは、大宇宙の彼方から、悪魔の親玉みたいな魔物が地球に押し寄せてくるという物語だったのだが。
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