Dandelion

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 時計を見ると、針は午後三時を示している。通夜開始の七時までには、まだずいぶん時間がある。家に戻ろうと立ち上がると、足元に一輪のタンポポが咲いているのが見えた。小さくて黄色いその花の上にはてんとう虫が一匹とまっている。  そういえば、小学生の頃、咲子と激しく喧嘩をしたことがある。原因は、タンポポが一面に咲き誇る野原に、僕が無造作に駆け込んだことだ。咲子はタンポポの花が大好きだ。僕にとってはそこら辺に生えている雑草と大して変わりのないその花も、咲子にとっては特別なものだった。  咲子の母は、咲子が幼い頃に交通事故で死んだ。その母が好きだった花がタンポポだったのだ。咲子の名前は、その母が一面に咲き誇るタンポポを見て付けたのだそうだ。だけど、そんなことを知らない僕は、何も考えることなく、タンポポを踏みつけてしまった。そんな僕に咲子が怒りを覚えるのも仕方がないことだ。  結局、その時は殴り合いの喧嘩をして、お互い体中に痣を作って家に帰った。それから一週間、僕と咲子は一緒に遊ぶことはなかったし、たまたま顔を合わせても口をきかなかった。僕はない頭を振り絞って仲直りの方法を考え、タンポポの花束を作って咲子に謝った。その時の咲子の笑顔は、今でも鮮明に思い出すことができる。
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