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家に帰ると、父と母は気が早いことに、もう喪服に着替えていた。
「あんたも早く着替えなさい」
母はハンガーラックに吊るされた僕の喪服を指しながら言う。
「まだずいぶん時間があるじゃないか。着替えるには早すぎるよ」
僕はそう答えて、二階の部屋へ向かった。かつて僕が使っていたその部屋は、僕がこの家にいたときのまま、机もベッドも本棚も残してある。とりあえず、時間を潰そうと、僕は本棚から適当な本を取り出して、ベッドに横たわる。
たまたま手にしたその本は、中学生の頃、仲の良かった友人から貰ったものだ。その友人は、高校一年生のときに突然死んだ。前日まで笑いながら話し、一緒に遊んでいたにもかかわらずだ。僕たちには死因が知らされなかったが、おそらく心臓発作か何か、そういう類のものだったのだろう。
その友人とは、子供の頃から仲が良く、よく一緒に遊んでいたものだから、咲子もよく知っていた。僕と咲子は、その友人の通夜にも告別式にも出た。告別式の最後、棺が運び出される前に、みんなで棺の中に花を入れてゆく。そのとき、咲子が言った。
「私が死んだときには、棺の中をタンポポの花でいっぱいにして欲しいな」
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