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あれからどのぐらい経っていたのだろうか分からない、彼女は少し離れた所で膝を機械の腕で抱えて座り込んでいる、俺は彼女の事についてまったくわからない。何故ここに居るのか、何を思っているのか。彼女は俺の事を解放してはくれたが俺はここから離れてもいいのだろうか。聞き出すことも出来なくてずっとこのままだ。
「……………おいお前、聞いているか。」
「え? な、何を?」
「さっきからお前の事を呼んでいたのだぞ。その耳はお飾りか?」
――悪態をつくことができるなら別に放っておいてもよかったかもしれないな。
「すみません……、それでなんでしょうか?」
「……今のこの国について教えてくれ。」
ある程度は予想していた言葉だったが、その口から聞くと計り知れない重さが感じられる。
「あぁはい…、大日本第二帝国は驚異的な生命テクノロジーと工業力の発展によって繁栄したけれど、昭和二二七年に米中の第三次世界大戦に巻き込まれる形で参戦した。これでいいですよね?」
「当たり前だ、次を頼む。」
「それじゃあ…、帝国はその技術力の高さを重く見られて早期から敵陣営の総攻撃を受けました。流石の帝国も数の力には敵わずそのまま押しきられて事実上敗北しました。その直後国家システムがダウン、国土も荒廃。それでそのまま二百年が過ぎたんで……っ?!」
言い終わるや否や、彼女は鋼の手で俺の胸元を鷲掴みにした。その顔には驚きと焦燥が入り交じっていた。
「荒廃? どういうことだ! 日本は焼け野原になったというのか!?」
「えっ?! そ、そうですけど……知らなかったんですか?」
そう言うと彼女は服から恐る恐る手を離した。
「……私はさっき目を覚ましたばかりだ。お前以外の人間とは会っていないし、ここから出てもいない。」
「すみません……。その後国家が樹立するわけでもなく二百年の間ここは無法地帯としてなりたっています。生き残った人達は少ないですが各地で生活しています。」
全てを言い終わった俺はどうすればいいかわからなかった。暗くうつむいている彼女になんて言葉をかければいい? 励ましの言葉? 笑顔になる笑い話? そもそもかけてもいいのか? そんな葛藤に襲われた。
「そうか……。私は生き残って、国は滅んだか。……………お前にこの私について教えてやろう。」
全く予想だにしていなかった。
「……いいんですか?」
「別にいい、もう国が無いのなら何を言っても構わないのだろうし。………私は黒咲華奈。父は帝国陸軍の少尉だった。とても優しい父でな、常に帝国と臣民の平和を求めそれと同様に家族も愛していた。だが敵国による襲撃で父は戦死した。私は悲しかった、だが辛くはなかった。父はしっかりと皆を守ったんだ、その死は立派なものなんだと分かった。そして私は父の想いを受け継ぐと心に誓った。帝国を臣民を、そして家族を護ると。そして父と同じように帝国への忠誠心を胸に帝国陸軍に入隊した。亡き父もきっと喜ぶだろうと思った。」
とても誇らしい顔をしていたがその顔はすぐにもとの沈んだ顔へと戻った。
「……だが待っていたのは女性差別、女の成功なんて誰も求めていなかった。国の為に何も出来ず、その頃は毎日が苦悶に満ちていたよ。想い何も意味をなさずに私自身の存在意義を見失いかけていた。だがとある出来事で私は変わった。当時軍は身体改造計画を行っていたのだ。」
「身体改造計画……?」
「そうだ。工学に化学、そして念導とかいうオカルトめいたものを用いて強化兵士を作ろうという計画だ。だが研究に失敗は付き物、常に実験台が求められた。これだとすぐに思ったよ。だから自らその計画に志願し、私は成功したのだ。」
そう言うと何の前触れも無く右腕を後ろの壁に叩き込んだ。壁全体に紅く光るひびが走り部屋も揺れる。人間とは思えないようなその力に驚く俺を見て、愛想笑いを漏らし話を続けた。
「凄いだろう? 私も最初は驚いたよ、勿論失う物もあったがな。だがこれで亡き父と父が守りたかった国の為に戦える、これで誰も私を女として蔑まない、そう思った。だがその時帝国は世界大戦に巻き込まれた、戦線を張る事すら出来ずに軍は蹂躙され父が守ろうとしていた臣民達も多くが亡くなった。そして私は戦闘をすることすら許されず、万が一の為にとこの施設でディープフリーズする事になった。理由は…………女だから、だった。結局私は何も出来なかった、この力も無駄になったのだ。ハハハ……おもしろいだろう? まるで道化だな。」
笑ってはいるがとても虚しい。彼女は国への忠誠心という大きな存在を拠り所にしていたのに、軍に裏切られて国も無くして多くのものを失った。そんな彼女に俺は何ができようか、意味の無い言葉をかけて何になるというのか。彼女の悲しみを会ったばかりの俺がどうにかするなんで馬鹿げた事だ、出来っこない。
だからといって無視していることも出来ない。俺は昔から馬鹿みたいなお人好しだった、それに孤独に放り出されたのならなおさらだ。ただどうすれば――――。
「………私は、私はどうすればいいんだ…。」
「私が教えてあげようか? 私の宝物になるのだよ。」
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