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「怪我の手当てまでしてくださってありがとうございます……。」
「別に例などいらん。」
あの後俺は崩落に巻き込まれて気絶していたみたいだが、黒咲が瓦礫の中から俺を引きずり出してくれたようでさらに怪我の処置をしてくれたみたいだ。
「あの、どうして俺を助けてくれたんですか?」
一人リュウセイから逃げる事だってできたはずだ。
「それは……一般人が立ち向かっているのに逃げる軍人がどこにいる?」
なぜかわからないが彼女は小さな声でそう答えてそっぽを向いてしまった。
「……それよりもだ! お前、さっきの言葉はなんだ?!」
彼女は急にもの凄い顔つきで睨んできた。
「えっ?」
「さっき言っていただろ、いったい何なんだお前達は! 宝物になれだ? 俺が助けるだ? 私を何だと思っているんだ!! 私は私だ! ……自分の存在意義は私自身で見つけてみせる!!」
彼女はきっと何かを見つけることができたのだろう。もう俺がどうこう言う必要は無い。
「そうですか…………、よかった。」
「何がだ?」
「いや、なんでもないです…。」
なぜか照れ臭くて笑ってしまう。きっとこの後彼女は俺と別れるだろう、そう思うと少し切なくなる。俺と彼女との出会いはたった少ししだけのものなのになぜこんなにも心がいっぱいなのだろうか。
「…………黒咲さん、またいつか会えるでしょうか?」
「何を言っている?」
「……え?」
「私はこれから自分の意味を探すために旅に出る。」
「はい……。」
「だがまだこの世界について何もわかっていない。実際さっきの男のような奴も沢山いるのだろう?」
「……はい。」
「だからお前が私の案内をしろ。」
「はい…………えぇっ?!」
「それよりまずは旅の準備だ。それとこの軍服じゃあ怪しまれるだろう、服も変えよう。」
訳がわからない。いや俺も実際旅をしているわけだからよく考えれば確かにいい考えなのだろう、が…………やっぱり訳がわからない。なんで俺がそういう事をやらなければいけないのだろうか。
「い、いや俺にもやることがあったりするのでそんな……。」
「なんだ? 私を助けたいのだろう?」
まるで嘲笑するかのようににやにやとしている。
「あー……もうわかりましたよ!! 手伝えばいいんでしょ!」
「そうだ。ほら今すぐ行くぞ、こっちだシヤ!」
「勝手に行かないでください!! あとそっちは海ですよ黒咲さん!」
初めて名前を呼ばれた事にも気づかず俺は彼女を追いかけていった。これからどうなるかはわからないが、これだけはわかる。今までに無いものと出会えるだろう、夢を超えるような何かを。
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