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ようやく俺の声が耳に届いたらしく、ハッとしたようにこちらに顔を向けたのは、朝日 史。
一度も染めたことのないだろう真っ直ぐな黒髪をいつも一つに束ねていて、眉上にパツンと揃えられた前髪からは、くっきりと覗く意志の強そうな大きな瞳。
独特な雰囲気を醸し出す朝日は、同じ高校から通う生徒が何人も居るにも関わらず、常に一匹狼を貫いている。
「あ、すいません」
朝日は表情一つ変えずにそう言うと、ささっと荷物を鞄にしまい込み、
「さようなら、影山先生」とこちらに小さく頭を下げて教室から出ていった。
……何を真剣に見てたんだか。
窓越しに外を覗いてみるけど、朝から降り続いている雨と、通りを走る車のルーフパネルがチラチラ植木の上から見えるだけ。
「……っ、やべ」
思い出したように独り言ちて、
俺はテキストや資料をガサッと纏めて脇に抱えた。
それから再び時計に視線を落とすと……
18時57分。
あぁ……
今日もまた余計なことに予定を狂わされて、12分のロスだ。
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