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「あれっ?影山先生、帰ったんじゃなかったでした?」
事務の職員に不思議そうに尋ねられて、
「まぁ、ちょっと……」と曖昧な返事をしながらデスクの引き出しを漁る。
確か、ここに……あ、あった。
業者から貰って突っ込んでおいた未使用のタオルを手に取ると、小走りで先程の場所に戻る。
「はい。これ、猫に」
少し息を切らした俺を見て、朝日は目を丸くして数回瞬きをしたあと、「ありがとう」とそれを受け取った。
「よかったね、温かいね」
囁くように話しかけながら、子猫の震える体をタオルでくるむ。
その横顔をチラリと盗み見ながら、俺は途端に手持ち無沙汰になってしまった。
缶コーヒーも渡しちまったし、猫に触れるわけでもない。
じゃあ、って帰ればいいのかね、これは……
「……影山って、カッコいいね」
「……はっ?」
唐突な一言に、思わず声が裏返りそうになる。
女子高生が10も歳上の冴えない俺に“カッコイイ”なんて、反応を見てからかおうとしてるとしか考えられない。
「あ、違うよ顔のことじゃなくて」
「わかってるわ!」
アハハ!とまた楽しそうに笑う朝日。
ほら、やっぱりからかってんじゃねーか。
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