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足りなくなる2
今まで聞かされた長い話を要約すると、こんなところだ。
ーーこいつは一体何を言ってるんだ。
僕は恍惚とした表情を浮かべながら一方的に話を続ける男を見て、震えを止めることが出来なかった。
目を覚ましてまず見えたのはコンクリート製の床と、見知らぬ男のシルエット。
次に服越しでも肌に伝わる冷たさに、床に寝転がされている事に気付いた。
周りをぐるりと目だけで見渡せば、見たことのない部屋、窓には格子。
扉にはいくつもの鍵がついていた。
何故か意識を失う前のことがはっきりと思い出せなかったが、これらの事から自分が目の前の男によって何処かに監禁されたのだとすぐ理解した。
逃げなくてはと思うものの、手足は縛られ、口にはガムテープが貼られている。
加えて唯一の出口であるだろう扉には複数の鍵。
更には扉と自分の間に立ち塞がるように男が立っている為、八方塞がりの状況に焦りと不安だけが募っていく。
「欠点が全く無い自分が理想とするパーツを集めて、俺という完全な人間を完成させること。それが完璧になる方法だ」
そんな言葉と共に目の前に現れた男の顔に、僕は息を飲んだ。
ツギハギなのだ。
端正な顔のそこら中に縫った跡が這っている。這いつくばった体勢のまま、男はさらに僕に顔を寄せた。
「見てくれよ。これが俺の理想である視力2.5の目玉だ。これは絶対音感の耳、それから……」
心底幸せそうな笑みを浮かべる男が、自身の顔をなぞる仕草から何故か目が離せない。
恐ろしいと感じているのに、この異常な男の動作一つ一つには自分にも理解のできない魅力があった。
そうしているうち、男の手は自身の唇からその口内へと潜り込んでいく。その瞬間頭の中を過ぎった恐ろしい推測に、僕は冷や汗が噴き出した。
突然力の限り暴れ出した僕を見て、男は目を丸くして立ち上がり、口を閉ざす。
訪れた沈黙に構わず、僕は動かせる限り体をバタつかせ唸り声をあげた。
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