2人が本棚に入れています
本棚に追加
誠編
「智子さん、本当にこのままでいいんですね?これで私は帰りますよ。何か問題が発生しましたら、また依頼してください」
******
(北村誠)
妻の麻衣子が癌になって入院することになった。
私はすぐに病院に駆けつけた。私の頭の中は真っ白になり、主治医の先生の言葉もまったく耳に入ってこない。また大切な人が亡くなるのではないかと考えたら、指は氷のように冷たくなり、全身の血液が抜け出てしまったような錯覚に陥る。
その日、自宅に戻ってきてからも、私は何をしていいかも分からなかったし何も手に着かなかった。
いつもは一人暮らしをしている美咲が、今日からこちらに泊まることになった。
「お父さん、しっかりして。麻衣子さんは大丈夫、絶対死んだりしないから」
娘の言葉は確信してるかのように強い口調だった。
父である私が娘に励まされてしまった。
そうだ、妻は死んだりしない。いや、死なせはしない。
私はその日の晩、娘のヒナちゃんと美咲が寝静まったのを見届けてから、私は一人外へ出てコンビニを何件も巡っていた。
…97、98、100。
五百円、百円、五十円、十円、五円、一円、全ての硬貨を合わせて百枚以上集まった。私はぴったり百枚をズボンの右ポケットと左ポケットに分けて突っ込んだ。
私がコンビニを巡っていたのは、お釣りを貰い百枚の硬貨を集めるのが目的だった。
私はその百枚の硬貨持って、神社に向かった。
この神社はここの土地を守ってくれている氏神様の神社だ。初詣にお宮参り、七五三、私たち家族は何かあるたびにここにお参りに来ていた。
私たち家族というのは、今の家族、そして前の家族のときも。
私の初めての結婚は、相手は高校のときの一学年後輩だった。高校のときから付き合っていたので結婚は早かった。私が二十三歳のときに結婚した。妻はすぐにでも子供を欲しがっていたが、なかなかできなかったし、妊娠をしても二度ほど流産を経験した。妻は私に申し訳なさそうにしていたが、私はそれより妻の体のほうが心配だった。妻は体が強いほうではない。よく貧血で倒れていたし、風邪などもひきやすい体質だった。私は子供はできなければできないでいいと思っていたが、しかい妻は子供を強く望んだ。
私が二十七歳のとき美咲が産まれた。妻が喜んだのはもちろん、私も喜んだ。美咲が泣いたり笑ったりするだけで我が家は幸せに包まれた。しかしそんな幸せは長く続かなかった。美咲が四歳になったとき、妻が亡くなった。突然死だった。死因も不明で、まるでただ眠っているだけのような表情だった。
それから約十二年、私は再婚することになった。
きっかけは娘が小学生の高学年になった頃、しきりに再婚しないの?と聞いてきた。お父さんの面倒見るの大変だから嫌、ということみたいだ。このころになると私は家のことを娘に任せていた。きっと友達と遊びに行きたいのに、家事があることで行けないこともあったのだろう。
家事をしてもらいたいから結婚相手を探すというわけではなかったけど、私もそろそろ今後の人生を考える必要もあった。
しかし再婚といっても、一人でできるわけではない。相手がいて初めて成立する。
私の周りには女の人がいない。仕事場で出会いがあるなんてことは一つもなかった。それに仕事が終わっても、留守番している娘が心配ですぐ家に帰るだけだし。
しかも初めての結婚も、学生のときに付き合っていた妻だ。いまさらどういう風に出会い、恋愛を始めていいのかすら分からない。
「お父さん、再婚しない気?私、大人になってまでお父さんの面倒見る気ないよ」
「別に美咲に面倒見てもらおうなんて思ってないよ」
「でも現に、夕飯作ってるの私なんだけど」
「…うん、まあ」
「中学になったら部活入らなくちゃいけないんだよ。学生は忙しいんだよ」
「分かってるよ。美咲も来年、中学だもんな」
「分かってるんなら再婚してよ」
「再婚、再婚、うるさいな。父さんだって相手がいれば再婚してるよ」
「あっ、お父さん、モテないのね」
小学六年生になるころには娘はどんどん生意気なことを言うようになる。腹が立つ。父さんはモテないんじゃない。ただ出会いがないだけだ。そう言ってやりたかったが、自信が無いので、ただただ私は無言で切り抜けるしかなかった。
私は仕方ないので最後の手段、マッチングアプリに登録することにした。私はこういう出会い系みたいなものに懐疑的だった。そこで出会った女性に騙されたりするのではないかと疑っていた。たとえば女性に会いに行ったら、後ろから怖いお兄さんが出てきたり、みたいな。
しかし私が再婚できるとしたら、もうマッチングアプリぐらいしかないだろう。私は真面目そうで、なおかつ再婚者の集まるものに登録した。
そして私は一人の女性と出会った。それが今の妻、麻衣子である。もちろん後ろから怖いお兄さんは出てこなかった。
麻衣子には当時、保育園に入った娘がいた。私の娘の美咲は、もう中学生になっていたので、ある程度放っておいても平気だが、麻衣子さんは違った。そんなに家を留守にするのは無理だった。だから私たちは付き合いだした当初は、あまり頻繁には会えず電話やメールでのやり取りが主だった。
だから私は子供たちを交えて付き合いませんか?と尋ねた。そのほうが麻衣子さんも娘を連れて外出しやすいだろうと考えた。
麻衣子さんは初めは悩んでいたみたいだけど、なんとか快諾してくれた。
そして私と美咲、麻衣子さんとヒナちゃん、四人で外食する機会を私は作った。
娘の美咲は、私には生意気な口を叩くが、意外と内気な性格で人見知りをする。私は美咲は麻衣子さんと話せないんじゃないかと心配した。しかしそんなことはなかった。きっとヒナちゃんがいてくれたおかげだろう。ヒナちゃんはよく喋る明るい性格だった。美咲とヒナちゃんはすぐに打ち解け、それに混じるように麻衣子さんともよく会話をしていた。
食事が終わり麻衣子さんとヒナちゃんと別れたあと、私は美咲と話をした。
美咲は急に、「私ね、この世界に神様っていると思うんだ」と唐突に言った。だって「奇跡が起こるんだもん」と言って、私の顔を見てニヤリと笑った。
きっと私と麻衣子さんが付き合っているのが、奇跡だと言いたいのだろう。本当に生意気になったもんだ。「頼むから麻衣子さんに嫌われないように素直にしてろよ」と私は美咲に注意した。
私たちはお互い子供を連れてよく出掛けた。美咲は麻衣子さんともヒナちゃんとも仲良くなった。度々、私抜きで、女三人で出掛けることもあった。嬉しいような、悲しいような、複雑な心境だ。
次第に、麻衣子さんたちとは外で会うだけでなく、我が家にも来てもらった。
麻衣子さんたちが初めて我が家に来たとき、ヒナちゃんが美咲の大切な鏡台を触ったことがあった。そのとき美咲はヒナちゃんに大声を上げて「ダメ」と叫んだ。
私は、麻衣子さんとヒナちゃんに嫌われるんじゃないかと思ったが、その後二人は気にしてない様子だった。美咲の鏡台に対しての想いには、ちょっと父親の私にも分かりかねるものがある。
そして麻衣子さんたちが我が家に来るようになって初めてのヒナちゃんの誕生日。娘が「サプライズパーティー」をしよう、と企画した。部屋中を飾りつけ、ケーキも用意した。そして突然、麻衣子さんとヒナちゃんを呼びつけた。
ヒナちゃんは大喜びで飛び跳ねていたが、麻衣子さんは泣きながら崩れ落ちた。「違うんです。嬉しんです」と、しばらくは泣きながら繰り返していた。
もちろん私は付き合いだした当初から結婚を意識していたのだが、そこからだろうか、私たちがお互いに意識しだしたのは。
そしてお互いのことを話し合い、結婚のタイミングはヒナちゃんが小学校、美咲が高校の入学の時期がいいのではないかと結論した。
そして私と美咲、麻衣子さんとヒナちゃんは家族になった。
美咲は一人暮らしするようになったが、結婚生活はおおむね順調で平凡な幸せな手に入れることができた。
だけど、それはわずかな時間だった。麻衣子さんが癌になってしまった。
きっと私には疫病神が取り付いている。いや死神かもしれない。前と妻といい、今回といい、私の妻になった人はすぐに亡くなってしまう運命なのだろうか。
私は静まりかえった神社に着くと、鳥居の前で一礼し境内の中に入った。境内に入るとすぐに私の胸の高さほどある石柱が立っている。そこには百度石と彫られ書かれていた。
私は手水場に行き、柄杓を使って手を清めた。そして百度石に戻り、左右の靴を脱ぎ裸足になった。手を右ポケットに突っ込み硬貨を一枚取り出した。
これからお百度参りを私はする。
お百度参りとは、百度石と拝殿を百往復し、百回祈願する方法だ。私はこのため両サイドのポケットに百枚の硬貨を入れていた。
百度石から拝殿まで行き、一枚硬貨を賽銭箱に入れた。鈴緒を持ち鈴を微かに鳴らした。もう深夜だ、うるさくしたら近所迷惑になると思った。そして二拝二拍手一拝し、どうか妻を助けてください、と心の中で祈った。
お百度参りをしようと思ったのは、前の妻の手紙にそう書いてあったからだ。
前妻の死から一年というもの、気持ちの整理をつけられずにいた。ずぐにでも妻に会いたいという衝動に駆られた。そんな私を、それでもなんとかこの世に繋ぎ止めていてくれたのは、美咲の存在だった。美咲の面倒を見ている忙しい時だけは、妻の死に向き合わずにいられる唯一の時間だった。
それでも一年が過ぎたころになると、私の傷も少しずつ癒えてきていた。時間が癒してくれたのだろう。
私もようやく妻の死を受け止め、家にある妻の遺品を整理することができた。目に見えるところに妻との思い出がいつまでもあると、やっぱり辛さが込み上げてくる。
ある程度、妻の遺品が片付けられたが、どうしても一つだけ片付けられないものがあった。それは妻が大切にしていた鏡台だ。今は娘の美咲が大切にしている。美咲は妻が亡くなってから鏡を見てることが多くなった。しかも、鏡に向かって「お母さん」と呼んだり、会話をしている様子もあった。
私は妻の遺品の整理のついでに、鏡台の抽斗の中も詳しく調べた。
抽斗の中には、美咲の大切にしている宝物で埋め尽くされていた。娘が抽斗の中に色々と入れていることは知っていたが、こうもいっぱい埋め尽くされていたとは思いもしなかった。
私はゴチャゴチャになっていた美咲の宝物をきちんと整理しようと、一旦抽斗から全部取り出し空にした。すると奥から一枚の白い封筒を発見した。封筒の中身は妻からの手紙だった。死ぬ前から入れて置いていたのだろう。
私は封筒を開け、手紙の中身を確認した。そこには『この鏡台は焼却処分して下さい』と書かれていた。
生前、妻はことあるごとに、「私が死んだら、この鏡台も棺桶に入れて燃やしてちょうだい」と言っていた。しかし私は、いくら妻が病弱だからといって、すぐ亡くなることはないだろうと、あまり相手にしてなかった。空返事で「はい、はい」と返すだけだった。
私はこの手紙を読んで、鏡台を処分するかどうか悩んだ。妻の願いとはいえ、今は娘の美咲が大切にしている。私は悩んだ末、一度美咲を精神科医に診てもらうことにした。鏡に向かって会話する娘が異常なのかどうか?それとその鏡台を処分してもいいのか?という相談をしに行ったのだ。
その精神科医の先生は私の話を聞いて、「ライナスの毛布ですね」と言った。
先生の説明によると、スヌーピーに登場する男の子ライナスが、いつも肌身離さず毛布を持っていることから呼ばれたという。別名、安心毛布とも言うらしい。
赤ちゃんが段々と母親から離れて一人で行動する時期、安心を得るために何か物に執着するのだそうだ。その執着する物が母親の代わりになってくれる。
子供がぬいぐるみや人形を持ち歩くのはそのため。しかもこれは子供だけでなく大人になってもあるという。過度なストレスが加わった時、何か物に縋って安心感を得ようとするらしいのだ。
だから娘さんは決して異常ではないと言った。むしろ正常な行動だと。母親を亡くし不安を解消するために鏡台に執着している。これで心の安定を図っている。鏡に向かって話し掛けても不思議ではありません。だから今、鏡台を処分したら、娘さんの心はより一層傷つくことになります。それだけは止めてください。
四六時中、鏡台に執着していないのであれば、お父さん、気にするほどのことではないですよ。と、私は精神科医の先生から言われたのだった。
だから結局、鏡台は処分しなかったし、娘も成長するにつれ段々と鏡台に話し掛けることも無くなったので安心した。
でも妻からの手紙の、『この鏡台は焼却処分して下さい』は気にはなっていた。
そして手紙にはもう一文、書かれていた。
『もし家族に災いが起きたら、氏神様にお百度参りして下さい』。
だからこうして私はお百度参りにやってきた。
一枚目の硬貨から二時間ぐらい経過した。右ポケットに硬貨はもう入ってない。左のポケットには一枚だけ硬貨が残っている。次で百回目になる。
私はお賽銭を入れるとき、最後の一枚を眺めた。そしてそれを再びポケットに戻した。今度は後ろポケットに手をやり財布を取りだした。そしてその財布から一万円札を抜き出した。一万円札に念を送るように握り、それから賽銭箱に入れた。「どうか妻が助かりますように」と祈った。
突然、目の前の拝殿が光った。光ったというより、電気がついたという感じだった。すると拝殿の扉が左右にゆっくりと開いた。そして中から一人の男が現れた。
その男はスーツ姿で歳は四十か五十ぐらい。髪はきっちり七三に分かれていた。
「あなたがお呼びになったのですか?」
扉の開いた拝殿から出てきて男は、私に向かって言った?
私は何が起きたのか分からず、呆気に取られて何も言い返せないでいた。
「あなたが私をお呼びになったのではないのですか?」と男は再び言った。
「えっ、神主さんですか?」
私はそう言うのがやっとだった。
神主にしたら格好が変である。普通は袴姿のような気がする。もちろん時間も時間だ。今は夜中の二時を回っていた。こんな時間まで神主も袴姿ではないだろう。しかしスーツ姿というのは変だ。
「違います。私が神主に見えますか?」
男はそう言うと、ひょいと飛んで賽銭箱を跳び越えた。そして私の隣までやってきた。
「私はこういうものです」
スーツのポケットから名刺を出し、男は一礼しながら丁寧に私に渡してくれた。
その名刺を見るとこう書かれていた。
右端に『陰陽師派遣会社 安倍晴明事務所』。中央に『式神 十二天将 天空』。
私は名刺を読んだ瞬間、詐欺師だ、と思った。
神社などに隠れていて、困ってお参りに来ている参拝客を騙す新手の詐欺だと考えた。とんでもない奴だ。私は本当に困っている。大切な人の命が係っているのに。人をバカにするのもいい加減にしろ、と思い、名刺をグシャグシャにして握りつぶして叩き返そうとした。その瞬間、スーツ男がとんでもないことを言った。
「あれ?智子さんの匂いが微かにしますね」
急に亡くなった妻の名前が出てきた。バカにされていると思い頭に血が上っていたところに、妻の名前が出て、一瞬心臓が止まるような驚きだった。
「なんで妻の名を知ってるのですか?」
私は咄嗟のことで大きな声で訊いてしまった。辺りは何の音もしない静寂な場所だから、余計に私の声が響いた。
「ちょっと、声のボリュームを下げて」
スーツ姿の男は周りをキョロキョロしながら小声で言った。
「すみません。で、なんで妻の名を?」
私は再び訊ねた。今度は小声で。
「一度、智子さんの依頼を受けました。あれは智子さんが二度目の流産をなさったときです」
間違いない。きっと妻のことだ。妻が手紙に残したこと。この人は詐欺師ではないかもしれない。
私は、左腕を鼻に近づけて匂いを嗅いだ。だけど智子の匂いなどしない。それもそのはずだ、もう十二年前に亡くなっているのに匂うわけない。やっぱり怪しい人なのか?
私の心は、信じていい人なのか?信じてはいけない人なのか?その両方で揺れていた。
「本当に私の体から智子の匂いがしたんですか?」と私は訊ねた。
「私は、陰陽師、安倍晴明に作られた式神。十二天将の一人、天空です。十二天将とは、干支を模して作られたものです。そして私は、十二支でいうところの戌です。一度受けたご依頼人の匂いは一生忘れません」
私は一度名刺に目を通す。『陰陽師派遣会社 安倍晴明事務所 式神 十二天将 天空』。
「もしや、あなた様は神様なのでしょうか?」
私は丁寧な口調でスーツ姿の男に訊ねてみた。
スーツ男は急に姿勢を正し、「私どもの会社のモットーは、お客様が神様です」とハキハキ言った。
信じたいのに、信じられない。本当は何かに縋って早く助けを求めたいのだけど、縋れない。どうも、スーツ男の発言に違和感がある。
しかし、そうも言ってられない。麻衣子を助けるために、一つでも多く手は打っておきたい。例え怪しくても。
私はスーツ男に全てを話した。
智子はもう亡くなったこと。そして今の妻、麻衣子が癌になったこと。自分に疫病神が憑いてるのではないか?っと。
「あなたに疫病神なんて憑いていません。安心してください。そうですか、智子さんが亡くなられたのですか。ちなみに智子さんは鏡台を処分してますよね?」
私は、なんで鏡台?と一瞬思った。でも智子の手紙に、鏡台の処分、お百度参り、両方書いてある。何かしら関係があると理解した。
「いえ、今も持っていますけど」
天空さんの顔色が変わった。
「なぜ焼却しなかった。いや、もう今さら。誰が持ち主だ。麻衣子という奴か?」
天空さんの声の圧が強くなった。
「いえ、娘です」と、恐る恐る私は答えた。
「マズいかもしれない。マズいかもしれない」。天空さん繰り返し呟く。そして「緊急を要する事態かもしれん」と言った。
「麻衣子の病状のことですか?」
「違う、麻衣子より美咲のほうだ」
私は何のことだかさっぱり分からなかった。だって入院しているのは麻衣子なのだから。どうして美咲のほうが大変な事態なのか不明だ。
不思議そうにしている私の顔を見て、天空さんは説明しだした。
「あの鏡台には妖怪の類が住み着いている。ちゃんと智子さんには説明したのだが。どうしても今は妖怪を祓ってほしくないし、鏡台を焼却できないと言うので、鏡台の裏に護符だけ張って応急処置はしたのだが」
ということは、美咲の命に危険が迫っている?私は天空さんの話を聞いて焦った。
「どうすればいいのですか?」と私は訊ねた。
「すぐに対処しなければいけない。できれば早ければ早いほどいい。今日中にも」
「分かりました」
「一つだけあなたに言っておきます。私どもの会社は慈善事業ではありません。報酬を頂きます。もし妖怪の類が住み着いていたら、祓うのに一匹につき二十万円になります。妖怪がいなければ報酬は発生しません。でも、お百度参りで入れた賽銭は私どもの呼び出し用なので返金できません。ご理解いただけたでしょうか?」
普段ならこんな話を聞いたら、いろいろと指摘したいことがあるのだが、もうこの際どうでもいい。一刻も早く対処をしたい。私は「理解しました」と答えた。
最初のコメントを投稿しよう!