『一人で行ってくれよ』編

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『一人で行ってくれよ』編

 飛行機雲が青い空に一本の線を描いている。真っ青なキャンバスに白い一本の線。体育の授業。今日はサッカーだ。啓徳学園中学2年の白根勇治は球を追いかけることも忘れ、ただ空を眺めていた。かなり高いところを飛んでいるようだ。エンジンの音は聞こえない。いや、聞こえるのかもしれないが、サッカーに夢中な生徒の声でかき消されているのかもしれない。同じグループの奴が球をリードしてしまった。こっちに来る。勇治はコートの淵を球の進行方向とは逆に歩き始める。  笛が鳴る。ゴールでも決めたのかと思ったが、どうやら試合終了のようだ。結局この数分間、球を追いかけるでもなく球とは反対の方向に歩いただけで、特段疲れを感じていない。汗だくのクラスメイトに混ざりながら、形式だけの挨拶を気だるく交わし、ベンチに引っ込む。
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