2 依

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 「中は見ないで」と言ったのに、聞こえていないのかどうなのか、航大はそれを遠慮なく開いた。 「え、お前、日記なんか付けてんの?」  仕方なくベッドから抜け出し、その薄い手帳を取り上げた。代わりに、リュックサックから借りていた小説を引っ張り出して、航大の二の腕辺りに押し付けながら抗議する。 「僕のモノじゃない。拾ったんだよ」 「拾った? お前、ホント変わってんな。他人(ひと)の日記なんて気味悪くね?」  体格は圧倒的に負けるけど、背丈は変わらない。思い切り睨むと、航大はおどけたように笑って「そんなに怒んなよ」と本を受け取った。  航大が先に部屋を出て、それからすぐに僕も身支度を整えた。身支度といっても、服を着てリュックサックを背負うだけだ。  さきほど脱いだデニムを履き、セーターを被る。安っぽい紺色の壁に掛けたパーカーを羽織り、少し悩んでから、リュックサックのファスナーを開けた。  闇の中から、悪意かと思えるほどにカラフルなゼリービーンズが、僕のことを見上げていた。  確かに、気味が悪い。  すぐに捨てれば良かったのに、なぜか手放すことができなかったそれは、こうして頻繁に僕に何かを訴えかけようとしてくる。手帳から目を反らすようにしてマフラーを取り出し、すぐに蓋をしてリュックサックを背負った。
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