311人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「二十歳かあ。若いな」
「航大も若いじゃん」
「まあそうだけど、二十歳に言われるとなんかなあ」
航大は苦笑いをしながらコートを掴む。そして「まあ、とにかくさ」と、二重の瞳を僕の方に向けて微笑んだ。
「3月までに欲しいもん考えとけよ」
「あー、うん。ありがとう」
4ヶ月先も、航大との関係は続いているのだろうか。僕から切ることはないから、結局は彼次第だ。
部屋を出る間際、航大は不意に僕の方に振り返り、「そう言えばこの間貸した本、今持ってる?」と尋ねてきた。
「持ってるよ」
「返してくれない?」
「うん」
ベッドから出るのが億劫で、腕だけを布団から出して航大の足元を指差す。「そこに入ってる」と言うと、航大は床に転がしてあった僕の黒いリュックサックを取り上げた。
ファスナーを開け、雑に腕を突っ込む。その様子を見ていると、先程までの彼との行為が脳内に甦る。
彼の太い指が探り当てたのは、しかし文庫本ではなかった。
紺色の壁と絨毯。白いシーツ。ほの暗いこの空間で、それは異様な程の色鮮やかさをまとい空気の中を泳いだ。
「なにコレ」
彼は手にしたゼリービーンズの絵柄の手帳を、まるで汚いモノでも触るように持ち上げている。確かにそれは、このホテルみたいに薄汚いし、僕たちの関係のように不自然な色合いをしている。
最初のコメントを投稿しよう!