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プロローグ
われはここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん。
わが生涯を清く過ごし、わが任務を忠実に尽くさんことを。
われはすべて毒あるもの、害あるものを絶ち、
悪しき薬を用いることなく、また知りつつこれをすすめざるべし。
われはわが力の限りわが任務の標準を高くせんことを努むべし。
わが任務にあたりて、取り扱える人々の私事のすべて、
わが知り得たる一家の内事のすべて、われは人に洩らさざるべし。
われは心より医師を助け、わが手に託されたる人々の幸のために身を捧げん。
—『ナイチンゲール誓詞』より
—これは遠い、遠い昔の記憶。幼い私と、優しい母がまだいた頃の話。
「お母さん、お母さんはどうしてナースになったの?」
私の質問に母はちょっと驚いた顔をして、すぐニッコリと笑う。
「それはね、この世でただ一人、私だけが出来ることだと思ったからだよ。」
「『私だけ』…?」
「そう。でも実はナースは私だけが出来る仕事ではなかった。誰にでもナースはなれる。でも私はやっと見つけたのよ。本当にこの世でたった一人、私だけが出来ることを。」
「それはなに?」
私の頭を優しく撫でる手。その手が気持ちよくて、とても温かくて、ずっとこの温もりを感じていたいと願った。
「うん、それはね…。」
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