親殺し

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「あんたなんでそうなるの!?意味不明!!私は…」 「うるさい!!被害者ヅラしやがって…」  家に帰ったおれを迎えた声は「おかえり」ではなかった。怒り、嫌悪、失望がねばついた負のノイズ。 夫婦喧嘩、というやつなのだろう。馬鹿のように、毎日繰り広げられる不仕合せな行為。 何のためにやってんだ?と問いたい。そんな怒号で他人が行動を変えてくれると本気で思ってんのか?フザケてんのか?なんのため。あー… ノイズは止むことなく続いていく。もはやおれの脳は二人の声を具体的な言葉に聞こえるよう変換するのも辞めるようになっていった。ダルいーー…めんどいーー…鬱陶しい。それだけだ。それだけだ、おれがあの二人に感じることは。 おれが家に入ってきたことぐらい、さすがに気づいてるだろうが、それでも止めないところをみるに相当「ヒートアップ」しておられるようだ。腹が減っているが、今リビングに入る気にはならない。二階の自分の部屋へ入っていくことにした。  腹が減っているというのは、ずいぶん苛ついてくるものだ。空腹だとマンガを読んだり、スマホをいじる気にもならない。ただ寝るだけでも空腹を直で感じるような気がして嫌だった。唯一テレビゲームだけは、空腹を紛らわしてくれる気がして集中できるのだがそれすらも今はやる気にならない。 あの負のノイズが、二階のこの部屋にまで聞こえてきているからだ。…腹減った。 具体的な言葉は聞こえてこないのに、感情だけはハッキリと伝わってくる。 怒り嫌悪失望歯痒さ悪意焦燥感不安優越感恨み後悔不満恥諦念ーー… まるで膿でも作ろうとしてるようにおれの心に届き溜まっていく。 いつもはイヤホンをつけてガードしているのだが、今日はそのまま聞いていた。 何故だろう。そうだ。腹が減ってるからだ…
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