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僕は幼い頃の姿で、コンサートホールの舞台に立っている。
向かい合う観客達は皆、真っ青な顔をしていた。目の前に仁王立ちしている男のジャンパーも陰に覆われた顔も青い。足元に横たわっている父の姿も青い。父の腹部から流れ出す血も青かった。飛び散ったそれも、生温かいはずなのに身体の芯から冷たく感じる。
気がつくとそれは、インクのように皺の間に入り込み、皮膚全体に染み込んできた。指先から腕へ、頬から首筋へ、色の濃度を深めて体を侵食していく。僕は恐怖で身動きが取れず、助けを求めて辺りを見ても、見開かれたいくつもの双眸は、こちらを見据えてただ青さを増すだけだった。
とうとう喉に流し込まれた青は、呼気を凍らせ、呼吸をも縛りつける。鼓動はひどく高まっているのに、どんどんと体は機能を停止するほどの冷気を纏って凍っていくばかりだった。ついには視界にぬらりと青の幕が下り、意識は薄れゆく彩度とともにゆっくりと飲み込まれていく。
「蒼斗!」
その声で、殴りつけられるように青の世界に沈み込む。深く、深く、どこまでも深く。熱は抜け、ただただ青に体が吸収されていく感覚に溺れる。薄れゆく意識の中で、僕は急激に理解していた。もう一生、この世界から逃れることはできないということを。
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