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真っ白なはずの天井が水色がかって見える。目を覚ましてそれを認識した途端、滲み出るように身体のだるさを感じた。また、やってしまったか。自室のベッドに横たわりながら、ため息とともに心の中で呟く。ゆっくりと瞬きを繰り返し、視界に薄く塗られたその色が消えては立ち現れる様子をなんとなしに見つめる。そんな静かな習慣を破ったのは、視界の端から現れた母の困り顔だった。
「蒼斗、大丈夫?」
母の心配そうな声が耳に届く。大丈夫だよ、と僕は母を安心させるために起き上がった。冷え切って蒼白い指先は、手をついたシーツの感覚をぼんやりとしか認識させてくれず、まだ血液が行き届いていないことがわかる。急に起き上がったからか、軽く眩暈もしていた。母の顔がさらに悲しく歪む。だめだ、しっかりしろ。揺れる視界を振り切って、手のひらを握り込む。ぎこちなさがばれないように、意識して口角を上げる。大丈夫。ちゃんと、笑えているはずだ。だが母は困り顔のまま、僕を見つめていた。
「ごめんね。私が急に入って来てしまったから……」
「僕が不用意に歌ってたからいけないんだ。母さんのせいじゃないよ」
母の言葉を遮るように言葉を発する。気持ちが焦ってしまったからだろうか、語尾が強めになってしまった。途端、母の顔はみるみる曇っていき、ついには両手で顔を覆って泣き始めた。
「貴方までいなくなったら私……どうしたらいいの」
ため息をぐっと堪えて、嗚咽を漏らして泣く母を優しく抱きしめる。震える背中を、赤子を寝かしつけるように一定のリズムで叩き続けた。
「大丈夫だよ。いなくならないから。一人にしないから」
呟きながら、呪いのようだと自分で思った。感覚を取り戻した指先が、触れるたびにじわりと悲しみを吸い取っているように感じる。まだ、目の前の壁は水色がかって見えた。
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