旅の途中

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起き上がることができるようになって元気が出るまでには時間がかかった。ちょうどこの国に来て一年が過ぎた日に帯人は浜辺へ行った。 令様の無事を祈りたいと思って、流れ着いた時に着ていた服を着てきた。 やはり嵐の季節で昨日までの天気が嘘であるかのように不気味な風が吹く。 突然、信じられないほどの大きな風が吹いた。 身体のどこにも余分な脂肪がついていない帯人の身体は、風にあおられて舞い上がりそのまま風と一緒に飛んで行ってしまった。 帯人を浜辺で見つけてくれた村長の娘は、突然飛んで行く帯人を見て、 「 やはりあの方は天からの使いだったのだ。」 と、納得する。 風に巻かれて着いたところは今までの景色とは全然違うところだった。 緑が深いジャングルの中の木の上に落ちて、そのまま引っかかっているようだ。 「 また生きてる。」 帯人は木の枝にふわりと落ちて呆然と辺りを見渡す。 自分の身に起こったことが今でも信じられず、でも周りの景色からここは今までいた所とは全然違うと思った。 見たことがない植物が生い茂るジャングルの中だ。 日本の山の植物とも海辺の山の中ともまるで違う。 帯人が空から降ってきて木に落ちて生きているのを見ていた人たちがいた。 天から落ちてきた神様かもしれないと、恐る恐る近ずく。 帯人は全く気が付かない様子だ。 見たこともない美しく光る衣装を着て、首から細長いヒラヒラの布をかけている。 肌の色は透き通るほど白く、手足が長く細いがとにかく美しい。この世のものとは思えない、見たこともない美しさだ。 皆、息を飲んでお互いの顔を見て息をするのを忘れたくらいだった。 「 天から神様が落ちてきた。」 誰かが言うと、皆で助けに行った。 木の上で困っているように見えたからだ。 帯人は突然現れたたくさんの人達に驚いた。 肌の色は褐色で精悍だ。 また全然わからない言葉を話している。 ( 違う国に来たようだ。) 帯人は恐ろしかったが、殺されるとは思わなかった。 この人達なら自分が気がつく前に、殺す事が出来ると思ったからだ。
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