287人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
男は立ち上がると前方を凝視した。予備で持っていたのであろう拳銃を静かに腰から取り外すとそれを前方に向けた。
「・・・・・・」
緊張した空気が張り詰める。誰も声を発することが出来ない状況だった。その時〝ブァン!〟と男の体が持ち上がったかと思うと再び勢いよく後ろに吹き飛び、壁まで飛ばされた。叩き付けられた男はそのまま下に崩れ落ち「チクショウ・・・!」と呟いて前方に目を凝らしている。
すると男は横で伏せている漁師の襟首を素早く掴むと「立て!」と凄んだ。目を見開いてヨロヨロと立ち上がる漁師の首に左腕を回すと、こめかみに拳銃を突き付けて、
「やめろ貴様! 次にやったらこいつを殺す!」
と前方向かって叫んだ。
「そんな事をする前にあんたの喉を欠き切る」
突然横から女の声がした。
「ハッ!」と目だけ横を見る男の喉には鋭利な鉤爪があてられていた。
「銃を捨てな。私の指の方があんたがトリガーを引くより速いよ」
目だけが露出された防護マスクを付けてタイトなタクティカルスーツに全身を包んだ女。
男は静かに拳銃を持った右手を下ろすとそのまま指を広げた。ガチャンと音を立てて床に落ちる拳銃。同時に人質の漁師も解放した。
「そのまま前に進んで」
観念した男は言われるがままに指示に従った。
「ごめんなさい、壊れたドアは弁償するわ」
女は詰所の漁師達に謝罪した。その女を見て一人の男が、
「あれ? あんた、タケシんとこのリリカちゃんかい?」
と目を丸くして聞いた。
「フフ」
女の眼は微笑んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!