1・追手

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1・追手

 オーサカ港。漁師達が漁を終えて帰って来た午後6時過ぎ。港には物々しい空気が張り巡らされていた。一見、何故そのような空気に感じるのかは分からないが、普段は水揚げをする漁師の声で活気づいているはずの声が聞こえない。残った漁師たちは詰所に文字通り缶詰にされている。時折その窓から漁師の何人かが顔を出して辺りの様子を伺っている。  突然黒い影が右に左に瞬く速さで移動したと思うと、それは高く舞い上がった。〝ダダダダッ〟サブマシンガンの音が漁港に響き渡ると「ヒィッ」と漁師達は慌てて頭を下げた。その音を皮切りに銃撃の音が幾重にも重なって響いた。  しばらく撃ち合いがされたと思うと再び辺りは静まり返った。詰所で体を伏せている漁師達が会話を始める。 「誰か警察に連絡をしたのか?」 「警察なんか来る訳ないだろ。放置だよ、こんな事。ギャング達の抗争だと思われるだけだ」 「それだって、弾丸が飛び交っているんだぜ」 「だから放置だよ。銃撃が遠のいたらダッシュで逃げよう」 「アブねぇよ、そんな事したら」  と言った瞬間〝ガッシャーン〟と入口のガラス戸を突き破って見知らぬ男が倒れ込んで来た。 「うああぁっ!」  飛び上がる漁師達。その長髪の男の姿は防弾プロテクターを全身に纏い、肩から下げた革ベルトには銃弾ボックスが無数に括り付けられていた。それを見てギョッとして硬直してしまう漁師達。
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