6人が本棚に入れています
本棚に追加
かがやく
朝。ご飯の炊ける匂い。お味噌汁の匂い。あぁ、今朝のお新香は茄子なのか。
鼻に入ってくる朝食の情報。それよりずっと正確なお母さんの動く音。台所をパタパタと歩くスリッパの音。私の部屋へと近付いてくる。あと三歩でドアが開く。
ガチャ。キィ。
「桜。起きてる?」
「うん。起きてるよ」
「相変わらず早いね。ご飯だよ」
「うん」
私はベッドの横に置いてある白杖を探す。確かこの辺なんだけど。
手探りをしていると私の手に白杖が収まってくる。
「倒れてたよ。ゆっくりね」
「ありがとう」
白杖を頼りにベッドから抜け出す。
生まれたときから、私は景色も日常も見えたことはない。お母さんもお父さんも最初は悲しんだみたいだけど、もう十何年も経つのだから慣れっこだ。いつかアイバンクから角膜が届く日も来るよって話されたりもする。
でもね、お母さんがいつも側にいてくれて、お父さんもいつも見守ってくれる。私は不幸だと思わないし、不幸だと思われれば腹も立つ。
私は不幸じゃない。ただちょっと人と違う。それだけのことなんだ。
最初のコメントを投稿しよう!