かがやく

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私の部屋は一階にある。壁に触れれば手摺もある。二階はあるけど、私の生活範疇の一階には段差もほとんどない。見えはしないけど、感謝はしている。家の中は自由だけど、一歩外に出れば危険だらけなのだ。お母さんに手を引かれても、お父さんに手を引かれても転ぶときは転ぶ。それを何度も繰り返して今がある。 お母さんと一緒にキッチンに行くと新聞を捲る音がする。 「お父さん、おはよう」 「おはよう。桜」 お父さんもお母さんもあまり音を立てていなくとも私に気付かれることは少なくない。家族でかくれんぼをしても家の中なら私は負ける気はしない。 黙っているけど、お母さんが側にいるのも分かるよ。お母さんの呼吸と心音はちゃんと聞こえてるから。 お母さんが私の椅子を引く。その音も分かるし。私の椅子だということも分かる。 「お母さん。ありがとう」 お母さんもお父さんも私には沢山気を遣ってくれるから、一日で何度もありがとうと言って感謝を伝える。まだまだ言い足りないけど。 お母さんも席について、三人でいただきますを唱える。お母さんもお父さんも私の目が見えないからこそ言葉を大切にする。ちゃんと私に伝わるように。 「あぁ。最近の政治は腹立たしいね」 食事の時間はラジオをつけている。私としてはお父さんとお母さんはテレビを見てもいいと思うのに家にはテレビがない。しかも私の聞きたいものに合わせてくれる。だから朝食の時間はニュースを聞くことにしている。特にお父さんは政治に関しては興味があるみたいだし。 そう。それが日常なんだ。 「ごちそうさま。桜、今日も気を付けるんだよ」 「はーい」 お父さんの箸を置く音がして、お父さんはそう言ってせかせかと出社していく。桜は美人だから気を付けるんだよと前は言っていたが、私があまりに笑うものだから今では後半部分だけを私に毎朝伝える。 そういうの親バカって言うんだよね。 「ごちそうさま」 私も箸を置くとお母さんの立ち上がる音がする。 「じゃあ学校に行こうか」 「はーい」 そのまま、のんびりと支度をしてから私は学校にお母さんと歩いて向かう。私のクラスメイトたちも視覚障害がある子ばかり。みんな、あまり気にしてないみたいだけど。 外を歩くと車の音。人の歩く音。話す音。動物たちの鳴く音。色々な音がない交ぜに耳に届く。白杖を駆使しながら、段差を見極める。音を聞き分けることには自信があるから事故に遭う確率は少ないけど、音がしないものには気を払わなければならない。 すぐ側にお母さんがいても私はなるべく自力で歩きたいのだ。
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