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第二話 蔭り
四歳の誕生日を迎えた時、現当主……つまりあなたのお父様から人形の作り方を伝授されるようになって。みるみる上達していく
あなたを、皆目を細めて見守っていたっけ。幼稚園、小学校一年生、二年生……。女の子みたいに愛らしいあなたは、女の子にとても人気が高かったわね。今は多様性が認められる時代だから、特に違和感なく溶け込んで。元から桃色や橙色や藤色とかが好きだったり、レースやフリルがたっぷりあしらわれたドレスやワンピースが好きで。可愛い花柄やギンガムチェックとか。そういったお洋服を作っては人形に着せたりしていたわね。
でも、あなたが小学校四年生になった時、
「お前キモイ、女みたい」
クラスで人一倍体格がよくて乱暴者の男の子のこの一言で、皆がそれに同調するようになってしまった。乱暴者は、あなたの事が羨ましかったのよね。あなたが女の子に人気がある事。頭が良くてスポーツも万能な事。何より彼が好きな女の子が、あなたに夢中だった事に。
同調したのは、まずは普段からあなたに嫉妬してた男の子たちから。今までキャーキャー言ってた女の子まであなたを避け、陰口を言うようになったのは、男の子たちを敵に回すのが怖くなったから。皆があなたを避けてるのに、自分だけあなたに変わらず接したら自分が苛められるから。つまり保身に走ったのね。
それから徐々に、まるで今までの神の御加護がなくなってしまっかのように、あなたは孤独に追い込まれていった。
「駄目だ! こんなナヨナヨした五月人形があるかっ!」
「これではどちらが女の子か男の子か分からないじゃないか! こんなお雛様とお内裏様があるかっ!」
お家でも、そんな罵倒を浴びせられるようになって。徐々に徐々に、あなたは居場所を無くしていった。
『僕が悪いのかな。生まれて来たらいけなかったのかな。男の子だから、男の子らしくしないといけないのに。僕が悪いんだ、僕が……』
優しいあなたは、誰を責める事なく。自分を責めて一人きりでよく泣いていたわね。だから私は必死に呼びかけたわ。
……違うわ。あなたは全く悪くない。ただメルヘンチックなものが好きなだけ。そしてその部分に長けた能力や感性もズバ抜けたものを持っているの。ね、だから早く気付いて。何を恥じる必要があるでしょう?……
家族もあなたに失望し、そのうち弟が生まれた。彼は五月人形みたいに凛々しいお顔立ちで。そのせいか、彼に期待するようになって。いつの間にか、次期当主は彼に、と期待されるようになった。
おかしいわ、こんなの。一族の伝統に拘るなら、当主は海渡の筈よ! しかも彼は三百代目の列記とした嫡男! 私は怒りに打ち震えたわ。だから、一族を守る力をあなたに全て注ぎ込む事にしたの。千年以上も生きていれば、それなりに妖力……いいえ、神通力と言っておきましょうね……神通力も身につくものよ。祟りや罰、として運気を下げたり、とかぐらいにはね。
あなたが泣く度に思ったわ。人間になりたい。あなたの側に行ける足が、あなたにかけられる言葉、声が。そしてあなたを抱き締める腕があれば……と。だけど、そんな力を使えるのは一度きり。しかも小半時持つか持たないかの僅かな時間。そして私の身は朽ち果て、魂は無にかえる……。
だから、あなたが寝ている時に、潜在意識に語り掛ける事にしたの。それは、夢としてあなたの記憶に刻みこまれるから。
私はこう語り掛けたわ。
……あなたは全く悪くない。あなたはそのままで良い。あなたの好きな事を貫きなさい。誰に何を言われても、誇りを持って。大丈夫。その道は棘の道でも、何年かかっても、あなたなら出来る! 大丈夫。私はいつも側にいるから。何があっても、私はあなたの味方で。あなたを全力で守るから……
と。
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