第一話 三百代目当主誕生

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第一話 三百代目当主誕生

 キラキラ、キラキラ。お日様の光、お星様の煌めき、月明かり。ひらひら、風に揺れる花びら。この世は綺麗なところでいっぱいだよ。早く生まれておいで。沢山、たくさん、楽しい事して遊ぼう! いつも側にいるから。悲しい時も、寂しい時も、しんどい事があっても。何があっても、私がついてるから。 だって私は……  そして、あなたが生まれた。生まれたばかりのあなたは、顔を真っ赤にして大声で泣いて。でも、あなたのお母様はとても誇らし気で嬉しそうだったわ。お父様は初めてあなたを見て「何て小さいんだ!」て感激して涙を零していたし。そして奥様、あなたのお母様を「でかした! よくやった!」て労っていたっけ。あなたのお母様、お父様両者のご両親も、それはそれは目に入れても痛くない程に可愛がってくださって。だって本当に、まるで女の子みたいに愛らしいのですもの。天使って西洋のものだけれど、海外の有名な画家が描いた天使みたいだったわ。声などは、まるで春爛漫を謳歌した風が穏やかに吹き抜ける、そんな感じがして。  とにかく、あなたは皆に祝福されて生まれて来たの。そしてつけられた名前は、海を渡ると書いて『海渡(かいと)』。人生の海を自分の力で力強く切り開き、渡っていけるように、と。そんなあなたは百瀬(ももせ)家の長男よ。  百瀬家は、平安時代から代々人形師を司る家系で。それはお雛様だったり、五月人形だったり、人形浄瑠璃のものだったりと、日本人形を創る一族なの。そして百瀬という苗字の謂われから、百代の区切りで生まれた長男は特別な力を持ち、一族を栄華と繁栄に導くという言い伝えがあって。あなたはちょうどその百の区切りで生まれたのね。三百代目当主ですって。  それからあなたは、大切に大切に育てられていって、スクスクと成長していったわ。初めて私と目があった時、あなたは嬉しそうに微笑んでくれた。あなたが生まれて百日目だったわね。嬉しかったわ。それからことある事に私に微笑みかけて触れてくれて。二歳くらいの時から、あなたは私に話しかけるようになったわね。三歳くらいの時にはもう、私の髪を梳いたりお顔を拭いたりして綺麗にしてくれるようになって。お父様お母様を始めとした一族の皆は、 「さすがは三百代目当主!」  なんて一族皆で大喜びしていたっけ。  そんな私は、代々百瀬家の当主をお守りする為に生まれた人形、名前は百夜(びゃくや)。当主をお守りするという事は、一族全てをお守りするのと同じ事。それ故、百年毎に一度、陰陽師の元で魂抜(たまぬ)きが行われ、当主が創る新たな体に魂を移し返る儀式が執り行われるの。  ちょうど、あなたが生まれた頃と私が生まれ変わる時期が同じだったのね。私は十一代目となるわ。とは言っても、体を新しくするだけなのだけれど。百年毎に新しい体に創り変えられるのだけれど、その時代その時の美人の価値観が異なるから、時代に合わせて美人に創って貰えるので大満足よ。  今の私は、深紅の地に金色と銀色の蝶が沢山舞い、黄色と白の大輪の菊が描かれた振袖姿よ。こっくりした漆黒の瞳は艶やかで……そうね、今はアーモンド型、というのだそうね。二重まぶたクッキリよ。長い睫毛に囲まれて、ほんのり薄紅色の頬に影を差すほどよ。高くて上品な鼻に、形の良い唇は心持ちぽってりしてまるで野いちごのよう。陶器のようにつるつるの肌は青味がかった白よ。平安時代と時の私は、源氏物語絵巻でよく見掛けるわね? あんな感じ。江戸時代は見返り美人でお馴染みね。文明開化の音がしてから、少しずつ西洋の美的感覚が一般的に取り込まれてきた感じかしらね。
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