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百日目。
きっと今日も窓は開いていないのだろう。
いや、それでもいい。百夜通ったことに意味がある。百夜目の今日で、私は彼を意のままにすることができるのだ。
私の願いはたった一つ。それを叶えることができるなら、私は見ることができなくてもいい。聞くことができなくてもいい。走ることができなくてもいい。
そんなことを考えていると、突然体がふわりと宙に浮く。
不器用に、暖かな腕が私を抱いた。
…驚いた。いったい、いつから窓は開いていたのだろう。
嬉しくて腕に鼻を擦り寄せてみた。インクの匂いも何も匂わなかったけれど、私は何故かあの煩わしかったタバコの煙を思い出した。
そのうちゆっくりと膝の上に乗せられて、優しい手つきで頭から体を撫でられる。
何度か撫でられていくうちに、強張っていた体がほっと息を吐いて、気持ちごと和らいでいくのを感じた。
ああそうだ、あなたも覚えてる?
百日目の今日、約束通りなら私はあなたを意のままにすることができるはずだった。
私の願いはたった一つだけ。
『あなたが私以外に心を許さず孤独に生きること』
それだけよ。
あなたが他の誰かをこの部屋に招くことがないように、現の世界で私を求め続けるように、この百夜を碇にしてあなたの心に沈めておくわ。
……ああ、よかった。彼の笑う気配がする。きっと私の思いはあなたに届いた。
だから、安心して私も笑った。
にゃあ。
そう一鳴きすると、私の体は小さな小さな灰になる。
誘うように吹いた夜風と共に、清々しい思いで私は空を飛んだのだ。
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