百夜通い

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十日目の夜。 いつも通り、彼は書斎で文字を書いている。コンコンと窓を叩くが、どうやら気づいていないらしい。 私はしばらくその涼しげな横顔を眺めていることにした。 十五分ほど経って彼はようやくひと段落ついたのか、背凭れにぐぐぐっと体重をかけ背中を伸ばしている。ふと窓の方にずらされた目が私のものとぶつかってしまって、彼はわかりやすく顔を歪ませた。 「君も懲りないね」 嫌味を添えてカララ…と窓をスライドさせる。これは部屋の中に入ってもいいという合図だ。 私は彼が自分のテリトリーに私を招いてくれるこの瞬間が一等好きだ。 彼はあまり友人を家に呼ばない。変化を嫌う人だから、きっと他人に自分の空間を乱されるのが嫌なんだろう。 それでも私は許されているのだという優越感。自分の存在が彼にとっては当たり前のものなのだという証。 私の来訪に毎度毎度鬱陶しそうに眉間の皺を深くしても、この窓の鍵が閉まっていたことは一夜だってなかった。 そういうところが甘いのだ。
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