百夜通い

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それから十五回ほど月が昇っても、私はめげずに彼のもとを訪れた。 締め切り明けなのか、いつもよりも荒れた部屋とボサボサの髪の毛。まったく、だらしがない人だと呆れてしまう。 机に項垂れた様子で微動だにしない。 この数日は黙り込むことの多かった彼だ。もしかしたら体調を崩しているのかもしれない。 「…今日でおしまいだ」 机に伏せたままでそう呟いた。 なんだ、起きていたのか。 どうやら、やはり今日は仕事の締め切り日というやつだったらしい。いつもこの日はくたばりそうになっていたけれど、ここまで荒れているのは珍しいと思う。 何故だろうか。まさか、私が毎晩訪れていたのが彼の執筆活動の妨げになっていたなんてことは…いや、彼なら私を邪魔だど認識した時点で追い出しているだろう。 首のところを掴んでポイと外に投げてしまうのだ。そういう人だ。 それでも、今日はあまり近がない方がいいかもしれない。彼の言葉を借りるならば【触らぬ神に祟りなし】というところだろうか。 本当は今日、私も体調があまり良くなかったので彼の膝を借りて一眠りしようと思っていたのだけれど、それはまた今度にしよう。 私は一向に顔を上げようとしない彼を見つめながら一晩を明かした。 どうか彼が悪夢にうなされることなどないよう、寂しげな背中を窓の外から見守っていた。
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