百夜通い

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九十六日目の夜、久方ぶりに聞いた彼の声は酷く震えていた。 「もう、ここへ来るんじゃない」 泣いているのだろうか。だとすれば一大事だ。 彼は捻くれていて陰険で、干からびたトカゲのような性格をした人間なのだ。そんな人間が自分の弱っている姿を誰かに晒すなんて普通じゃない。 どうしたの?何かあったの? 聞いても彼は見当違いな事ばかり話した。 「どうしてあの夜を最後にしなかったんだ。君はあの日、僕のもとを去るべきだった。僕が君に百夜通えと言ったのは皮肉だよ。君にできることじゃないと知ってて言ったんだ。…君はもう、ここに来ちゃいけない」 べちゃりと頬から爛れた肉片が落ちる。 それでまた彼が泣いてしまう気配がした。
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