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序章
植物は、誰かに教わることなく、生き方を知っている。四季に富んだこの国で、咲くべきときに美しい花を咲かせ、種という子孫を残したころに、散り際を知る。
咲き終わった花の残骸を「花がら」と呼ぶ。花がらをそのまま放置しておくと、タネを結んで株の老化を早めたり、灰色かび病を誘発するため、早めに摘み取らなければならない。これを園芸用語で「花がら摘み」という。
チューリップは、球根を太らせるために、咲きごろを迎えた頃に、頭を落とす。畑では、頭を切り落とされた茎が無残に、そして、無機質に次の世代のためにだけ生きる。
いつから、こんな風に考えるようになったのだろう。昔は希望に溢れ、自分自身にもっと希望と可能性を感じていた。ところが、今の私はどうだ。
咲きごろさえも逃し、無残にも頭を切り落とされた。ただ、誰かを喜ばせることもなく、毎日を目的もなく、生命を維持するだけの人生。
せめて、生きた証が欲しい。私は茎だけの植物ではない。ましてや、隣の球根を太らせるためだけに生きているやつとは違う。
そんなことを悶々と考えていると、夏の匂いが混ざった風を感じた。頭はないが、空を見上げる。青く澄み切った初夏の空が広がっていた。
あぁ、もうこんな季節になるのか……自分の余命を悟る。
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