11.月のない夜にも

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 清水さんはすでに生花部の花台の片付けを手伝い始めたところだった。 「清水さん、これ、使ってください! 火傷は応急処置しておいた方がいいですから」 「いいっすいいっす! それより西宮さん、触るときに気を付けてくださいね!」  清水さんは取り合ってくれず、さっさと花台と抱えて出て行ってしまう。  仕方ないので、私はおしぼりで包むように、香炉の銅板の皿になっている部分を取り外し、給湯室へ持っていく。  灰皿を借りて水を張り、灰ならしで炭を掬って、水に落とした。ジュウっという音とあぶくを立てて、炭の火が消える。  火が消えてほっとしたものの、びしょ濡れの炭をここから取り出して捨て、灰皿と流しを洗わなければいけない。  炭の処理だけに随分手間取ってしまい、全ての香炉をきれいにするころには、清水さんと伊織さんは本堂の端で、道具箱の蓋を開け、香炉が戻ってくるのを待っていた。 「お待たせしました!」  香炉に新聞紙の蓋をして道具箱に仕舞う。 「オッケーっす!」  待ちかねていた清水さんがパッと道具箱に蓋をする。ガシッと掴んで持ち上げると、背中をそらす様にしながら、外階段を降りて運んでいく。  伊織さんは清水さんを見送ると、私に向き直った。 「ご葬家が戻るまであと一時間半、というところですね。私は両国の会館に行かなければいけない用件が入ったので、西宮さんは休憩していてください。外出してもらっても構いません。火葬場からの出発連絡が入ったら、私から電話しますので」  テキパキと言うと、脱いでいたジャケットをさっと羽織り、伊織さんも階段を降りていく。お昼休憩が一緒にできるかと思ったけれど、そう甘くはなかったみたいだ。 「わかりました。連絡をいただいたら、準備してお待ちしてますね」 「はい。初七日で使うものは、先程一階に移しておきました。香炉もお寺の物を使うので、炭だけ点けておけば大丈夫ですので!」  階段の下の方から珍しく声を張って言い残すと、伊織さんは軽やかに尊明寺を出ていった。
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