1.あなたのいた季節

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 儀式は進み、納棺士さんふたりは、慣れた手つきで体全体をすみずみまで洗い、髪もシャワーで丁寧に洗った。身体を拭かれ、長い髪はドライヤーでふわふわになるまで乾かしてもらえた。 「万里江さん、気持ちよさそうね。よかったね」  母は鼻声で話しかける。うん、と私は頷くしかできない。   「すまん、電話が」  涙をぬぐいながら、父が部屋の外に出て行った。こんな時に出るのだから仕事のことだとは思うが、電話をかけてきた方も、まさか社長がぐずぐずの涙声で応答するとは思うまい。  爪を整えられ、化粧を施された万里江ちゃんは白い仏衣をまとい、棺へ移された。   「これから、お浄土まで長い長い旅をされると言われています。皆様で、あの世への旅支度をお手伝いしてさしあげてください」  納棺士さんに言われて、手には手甲(てっこう)、足には脚絆(きゃはん)の紐を結ぶ。私は手を担当した。肌に触れると冷たく、生きているときよりも弾力がなくぺしゃりとしている。他にも杖やら笠やら、六文銭(ろくもんせん)やらを収めた。表面のてかてかした白い布団をかぶせられ、頬紅をさした姿で、細長い棺のなか叔母は今にも、「ふふふ」とくすぐったそうに笑い出しそうだ。  父が戻ってきて、棺を覗き込み、 「まーちゃん、よかったな。キレイにしてもらえたぞ」  と泣きついた。時計を見ると、ちょうど1時間。17時になっている。合掌をして、父と納棺士さんで棺のふたを閉じると、絶妙な間で、すらりと入り口のドアが開いた。若い女性スタッフが、失礼いたします、と声をかけて椅子席の通路を通ってキャスター付きの細長い台を運ぶ。 「お棺をご移動します。お手伝い願えますか」  そう声をかけられて父、朔太郎が棺をそっと載せ、いつの間にか現れた伊織さんが、 「みなさま、式場へご一緒にご移動いたしましょう」  と先導した。  伊織さんは2階のボタンを押したが、1階でエレベーターが止まる。 「少しお待ちください」  伊織さんがドアが開く前に声をかけてくれる。言われなければ、どの階でとまろうと、ぼんやりしている私たちはぞろぞろと降りてしまっただろう。  ドアがゆっくり開くと、目の前に礼装の女性たちが3人、乗り込もうとしてくるところだった。 「申し訳ございません、お次でもよろしいですか?」  伊織さんが丁寧に詫び、ドアを閉めた。が、 「どういうこと?」  エレベーター内は騒然となる。
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