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「このあと来るのって、大叔父さまたちだけだよね?」
親族のみ、と声をかけたが、父方は祖父母はもう亡くなっているし、他の親戚もほとんどが施設に入っている高齢者ばかり。会葬に来るのは母の叔父とその奥さんだけになる予定だった。
「今のは生徒さんたちってことよね」
母が目をぎらりとさせて呟く。
「まさか、小日向さんかしら」
エレベーターが2階で止まる。式場にぽつねんと、小日向さんが背中をまるめて座っていた。ガラガラ、と棺を運ぶ台車の音に気付いて立ち上がる。目の前を運ばれていくその筐体を茫然と眺める。伊織さんと女性スタッフが棺を安置し、深々と一礼して、棺の蓋についている窓を開けた。伊織さんは流れるような動きで祭壇の正面に回り、仏具の中かからロウソクに火をともす。
「お線香をお上げください。ご希望でしたら、御対面なさってください」
小日向さんが、父に背を支えられ、線香に火をつけた。ふっと立ち上る煙をゆらめかし、棺の窓の方へ回り込む。
「まーちゃん」
父と同じように愛称で叔母の名を呟くと、眉を八の字に下げ、唇を噛み締めた。泣き崩れるかと思ったが、ぺこりと頭を下げ、線香を手向けると、ぎゅっと拳を握ったままこちらへ歩いてくる。
とても、生徒さんに連絡しましたか?なんて聞ける雰囲気ではない。
が、カットインしたのは、伊織さんだった。
「恐れ入ります、お客様。女性のご会葬の方が何名かお見えです。お心当たりはございますか」
「……いいえ」
ぽろりと涙を落としながら、小日向さんが首を振る。母が軽く目を見開き、再びどういうこと? と表情で私たちに訴える。そこへ先ほど非常階段で出くわした長身の女性スタッフがすすっと式場入り口に立ち、
「先ほどの女性の方々は1階でお待ちいただいております。あのあと5名に増えました。睦月さん、という方から連絡が来て、18時からお式があると教えてもらったとおっしゃってましたよ」
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