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「うわあ……」
他社とは言え、かわいそう。葬儀屋に悪いイメージを持つ人は多い。新築で家を建てたあと、その家の前を霊柩車が毎日行き交う、なんてことになったら、気分はよくないだろう。反対の気持ちもわからなくもない。
けれど、生きている以上、いつかは死んで、荼毘に伏す。認可の葬儀業者以外、ご遺体を搬送できないから、必ずお世話になるのになあ。
「ありました。あそこですね」
伊織さんが私を励ますように明るい声をあげる。
横断幕の斜向かいに、「天空セレモニー」の看板が見えた。屋根なしの駐車場と、煉瓦色の3階建ての建物。大きさは、ここから見る限り、清澄会館より少し大きい、と言った感じだろうか?感謝祭、と書かれた幟が数本並んでいる。
風船を持った子供が出入りし、住宅地の奥から、続々と自転車に乗った老若男女が集まりつつある。
「すごい、大盛況」
建設反対、を叫んでいた人はごく一部なのだろうか? 町内会の祭りのようなにぎやかさが、入り口から溢れている。
「行きましょう」
いつもの伊織さんの顔が言った。緊張が解けたのかもしれない。
入り口の自動ドアの前には、大きく『天空セレモニー感謝祭』と掲げられている。いつもは葬家名の看板を立てるところだろう。私たちの脇を押しのけて、カジュアルな格好のおばちゃんたちが、ふうふうと汗をぬぐいながら中へ駆け込んでいく。誇張じゃなくて、本当に駆け足で、末広さんのような真ん丸な体を揺らしながら、エレベーターへ飛び乗る。
「きっとこれです。野菜の特売会」
伊織さんがハッピを着たスタッフから受け取ったチラシを指さす。
「野菜、ですか」
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