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「うわ、これ全部クレーンゲームでとったんですか?」
袋の中には、こぶし大のぬいぐるみが大量に入っていた。すべて、黄色の細長い顔にデニム地のリュックを背負ったキャラクター『ミリトンズ』だ。ちょっとずつ違う体形と顔つきをしていて、それぞれに名前がついている。大学時代、私の友だちもこのキャラクターにはまって、集めていた子がいたっけ。紫藤さんが持っていたのは、チェーンリングがついた、キーホルダーにもなるタイプ。ざっと100個はあるだろうか。
「捨てるって言って聞かないんですよ。人形供養に出すって言うんです」
と志月さんは不満そうだ。
「だって結婚して家具も増えたし。使わないものは写真に撮って捨てたいの」
と紫藤さんはさっぱりしている。
「見てもいいですか?」
と、いくつか手に取ってみた。カウボーイタイプは、羽織ったベストのボタンまでちゃんとついているし、ウエディングドレスを着たバージョンはひっくり返すとハイヒールを履いていたりと、かなり凝った作りになっている。
「景品とは思えないくらい、丁寧なつくりですね」
「まあね、でもこれにどれだけお金をつぎ込んだかは計算したくないなあ」
そう言って笑う彼女のすぐそばを、野菜の袋を両手に下げた中年の女性がきょろきょろしながら通り過ぎる。
「さっちゃーん? すみません、女の子こっち来ませんでしたか?」
買い物に夢中になっている間にはぐれたらしい。
「いえ、こっちには来てませんよ」
一同が顔を見合わせ、志月さんが答える。
「あ、あそこか!」
母親らしいその人は、駐車場に設けられたヨーヨー釣りコーナーをガラス越しに見て、ほっとしたように外へ出て行った。
「野菜も買わなきゃだから、急いでこれ、預けてこないと」
と紫藤さんは紙袋を抱えて、人形供養の会場である3階へ向かうべく廊下奥のエレベーターホールへ向かおうとする。
「私たちもひとまず2階へ行きましょうか」
とついて行こうとする伊織さんの腕を、志月さんがぐっと引きとめる。
「伊織さん、ちょっと」
「はい?」
伊織さんは戸惑った表情で志月さんを振返る。私は伊織さんと残るべきかと足を止めると、志月さんは手の平で紫藤さんを示し、
「あ、妻と先に行ってください」
と促した。
「あ、ああ、はい」
何か伊織さんとふたりで話したいことがあるのだろう。訝しく思いながらも、紫藤さんを追いかけて、エレベーターホールへ進む。
「あれ? 志月は?」
「何か、伊織さんに話があるみたいで」
エレベーターが到着し、杖をついたお年寄りや、ベビーカーの親子連れが降りてきた。
「来ないですね、おふたり」
「ちょっとお、何話してるの? 先行くよ!」
紫藤さんが叫ぶと、ああ、待って、と志月さんがやや情けない声で叫んだ。小走りでこちらへやってくる。後ろから伊織さんも、しぶしぶ、と言った雰囲気で歩いてくる。
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