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「西宮さん、私たちも先に人形供養へ行きましょう」
と伊織さんが言った。その顔に浮かぶ、微妙な苦笑い。
「あ、はい」
どうやら、志月さんに何か頼まれたらしい。おそらく、人形供養の会場まで付いてきてほしい、ということだろう。でもいったい何故だろう?
エレベーターに乗り込むと、志月さんはそわそわと、つま先で床を叩いている。
人形供養は、エレベーターを降りて正面、普段は式場として使われている広い空間で行われていた。最近の式場に多い、ふんわりと優しい間接照明が印象的な内装だ。建物は古いから、中だけリフォームしたのかもしれない。入り口には大きな毛筆の看板が出ており、読経時間が掲示されている。次は11時半からのようだ。
「うわあ、お人形さん、いっぱいですね」
供養される人形たちが、仮設で作られた白い棚にずらりと並んでいる姿は圧巻だった。棚の大きさは小さめの祭壇くらい。市松人形、フランス人形、テディベア、お雛様、とオーソドックスなものから、カメレオンのぬいぐるみや、変形する新幹線のおもちゃまで、びっしり棚に並んでいる。びっしりと人形たちが数段の棚に収まり、正面を静かに見つめている光景は、ちょっとだけホラーな香り。
ひとつひとつは可愛らしいのに、集まると怖いのは不思議なことだと思う。
「今日だけでこんなに集まるなんて、すごいですね」
伊織さんは顎を撫でている。人形の数は来場者の多さもあらわしている。この近辺で、なごみ典礼は天空セレモニーに一歩遅れをとっているようだ。同じ規模の会館がないことが足を引っ張っているのだ。
「お読経が11時半からかあ。参加できるかな」
と志月さん。
「なんでよ、今、10時半くらいでしょ。来れるんじゃない?」
紫藤さんが、看板を顎でしゃくりながら口をすぼめた。
「でも、野菜を買って、ハンドマッサージもやりたいって言ってたよね。お花のコーナーで買い物もしたいんだろ?」
「まあ、そうだけど。読経は参列必須じゃないでしょう」
「でもお金出すのに、預けただけじゃさあ」
お金、とはお坊さんへのお布施だが、『すべて被災地支援に寄付します』と受付の机に書かれている。葬儀屋さんとお坊さんで話がついているのだろう。
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