1.あなたのいた季節

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 母が、階下で私の名前を呼んでいる。はーい、と返事をしたものの、姿見の中、喪服をまとった私はスツールから立ち上がることができない。瞼はパンパンに泣き腫れて、それでもまだじわっと涙がにじみ出る。 「輪花ー! あんた、靴箱のなかの靴も、自分のマンションに送ってちょうだいよね」  そんなことを叫びながら、ばたばたと慌ただしく動く母の気配。 「わかってるけど! だって万里江ちゃんが死んじゃったんだよ? もうあたし、何も考えられない」  ふにゃふにゃの声で叫び返したけど、伝わったかどうか。  ううううう。  ティッシュでこすりすぎて鼻の皮がぼろぼろ。  まるまるひと箱使い果たしてしまい、仕方なく階下へ降りた。    リビングのカウチソファーに倒れ込み、また涙。  母のため息もお構い無しだ。  父の妹にあたる万里江おばさんは元々病弱で、最近も体調が良くなかったのは知っていた。  でも、こんなに早く逝っちゃうなんて。
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