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母が、階下で私の名前を呼んでいる。はーい、と返事をしたものの、姿見の中、喪服をまとった私はスツールから立ち上がることができない。瞼はパンパンに泣き腫れて、それでもまだじわっと涙がにじみ出る。
「輪花ー! あんた、靴箱のなかの靴も、自分のマンションに送ってちょうだいよね」
そんなことを叫びながら、ばたばたと慌ただしく動く母の気配。
「わかってるけど! だって万里江ちゃんが死んじゃったんだよ? もうあたし、何も考えられない」
ふにゃふにゃの声で叫び返したけど、伝わったかどうか。
ううううう。
ティッシュでこすりすぎて鼻の皮がぼろぼろ。
まるまるひと箱使い果たしてしまい、仕方なく階下へ降りた。
リビングのカウチソファーに倒れ込み、また涙。
母のため息もお構い無しだ。
父の妹にあたる万里江おばさんは元々病弱で、最近も体調が良くなかったのは知っていた。
でも、こんなに早く逝っちゃうなんて。
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