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「お父さん、起きて!」
「な、なんだ?」
高いびきだった喪主が目をこする。
「私、ちょっと出かけてくる!」
「出かけるって?」
「万里江ちゃんの家!」
「ええ?」
ぼさぼさ頭の父が目を見開いた。突拍子もないことはわかっている。でも早く確かめたくて仕方ないのだ。
「ちょっと、ちょっと待て、輪花。もう8時半じゃないか。母さんたちが来るのが30分後だぞ」
「少し確かめたいことがあるだけだよ」
「小日向くんに電話するんじゃダメなのか」
「あー! その手があったか!」
私の叫び声に父が身体をのけぞらす。早速電話番号を教えてもらってかけてみた。なかなか出ない。
「……おはようございます」
まだ眠っていたようだ。申し訳なさも感じるが、それよりも伊織さんによって解かれた謎の答えを教えたくて仕方ない。
「小日向さん、おはようございます。輪花です」
「ああ、昨日は色々、ありがとう。眠れないかと思ったら、家について服を脱ぐなり、ソファに倒れてしまったよ。電話してくれなければ、告別式に遅刻してしまったかもしれない。もしかして、伊織さんに起こせって言われたのかい」
「いえ、まさか」
結果的にはそうなったが、まずは小日向さんを驚かせたい。
「小日向さん、今から私の言う通りにしていただけますか?」
「言う通りに?」
「難しいことじゃありません。カーテンを開けて窓の外を見ていただきたいんです」
「外?」
「お庭です。桜の木の下に」
カーテンを開く音が、サラサラと聞こえる。我慢できずに私は尋ねた。
「──向日葵が咲いていませんか?」
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