10.扉の中と胸の内

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「そうだったんですね……清水くんの方が先に倉庫にいた、ということですね」  伊織さんが時系列を整理する。 「ええ、まさか先に清水さんがいるとは……あ、そういえば、私が入る前、倉庫の鍵は確か閉まっていて、山路さんが開けたんです。そのあと、また鍵が閉まってしまって、中からは開けられなかったので、清水さんが天窓から脱出しようとしたんです。清水さんて密室にいたってことになりますね」  私も最初から出入りを追って考えてみると、清水さんが入ったあと、なぜ鍵が閉められていたのかが謎だ。 「えっ、俺も閉じ込められてたってことっスか?」  清水さんもその事実に今気づいたらしい。 「清水くん、ここの倉庫のドアのこと、知らなかったんですか?」  伊織さんが怪訝そうに清水さんに尋ねる。 「倉庫のドアのこと?」 「ここは古い建物で、あちこちガタが来ていましてね。なので、扉が勢いよく閉まると、衝撃で鍵の金具が落ちて、閉じ込められてしまうことがあるんです。先月くらいから、みんな気を付けるように、申し合わせていました。作業中は扉が閉まらないように、ドアストッパーになるものを挟んで作業するようにと」  伊織さんの淡々とした説明を聞いて、私の背筋にはぞわっと寒気が走った。  山路さんが去っていったときの、ガタン!と扉を蹴るような衝撃。  あれは、鍵がかかるようにわざとドアを乱暴に扱ったのだ。私を閉じ込めようという悪意が、あの一撃に込められていたかと思うと、正直言って怖くなる。 「えっそうなんスか」  恐怖を少し和らげてくれたのは清水さんのとぼけた声。 「そうですよ。なので、清水くんは倉庫の扉を閉めるときに、少し力を掛け過ぎたんでしょう。そんなこともあるかとは思って来てみたら、案の定でした」  まったく、とやや呆れ顔の伊織さん。 「伊織さんが来てくださって、助かりました。清水さんが別館にいるのはご存じだったんですか?」  いえ、と伊織さんは首を振った。そうだろう、もし清水さんが別館に行く用事があると知っていたら、そもそも返礼品を運ぶ指示も、清水さんに出していたはずだ。 「木魚がひとつ、壊れまして」  ぎくり、とわかりやすく清水さんは身を縮ませた。
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