1534人が本棚に入れています
本棚に追加
/470ページ
「そうっスね、急がなきゃ! こう、スクラム組むみたいに歩けばどうかな」
「いえ、全然歩けますって」
私はそっと立ち上がる。落ちた直後より、痛みはかなり収まっている。どこかが腫れている感じもない。ちょっと痛いけど、人に捕まって歩くほどではなかった。
「お迎えもちゃんとできそうです」
50人が一度に帰ってくるのだ。人出は多いに越したことはない。
「無事でよかったです」
伊織さんがふわっと表情を緩ませた。私の眼はその顔に釘付けになる。仕事中はあまり見ることのない、くしゃっとした笑顔だったから。しかしそれは一瞬で溶け、いつものポーカーフェイスに戻る。
倉庫を出て、雨のなか会館へ駆け戻ると、玄関ではお迎えの準備のために藤原さんや配膳スタッフさんがすでに降りてきていた。
「西宮さん! どこ行ってたの? 何かあった?」
藤原さんが驚きと安堵の入り混じった顔で、私たちのところへ駆け寄ってきてくれた。
「ご心配おかけしました」
「トイレかどこかで倒れちゃったのかと思って、みんなでかなり探したのよ。どこにいたの?」
私は本当のことを話した方がいいか、少し迷う。
「西宮さんは、別館の倉庫のドアが開かなくなってしまって、閉じ込められていたんです」
伊織さんの声が、上から降ってきた。やっぱり、話すしかないか。
「別館に? もしかして返礼品を置きに行ったの?」
藤原さんが、ああ、と合点したような表情になる。
「……はい。……実は、山路さんと」
「清水くんと一緒に行ってほしいと、私が頼んだんです」
私の話を遮るように、伊織さんがはっきりとした声で続けた。清水さんも倉庫で見つけ出した木魚を抱えて、話を合わせるように頷いた。
「えーと、俺も用事あったんで、ついでに行っちゃえって、行ったら閉じ込められたっス! 伊織さんが見つけてくれて、助かりましたけど!」
最初のコメントを投稿しよう!