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「そういえば、お庭はご覧になりましたか?」
優しく微笑まれて、頷くのが精いっぱいだ。
「いかがでしたでしょうか、的を射ていたかどうか、自信が無かったのですが」
嘘ばっかり、と言いたくなるほど穏やかで自信に溢れた口ぶりだ。
「本当に向日葵が咲いていましたよ。ほら」
カーテンを引く。ついでに窓を開けた。小さな桜の木がたっぷりと花を纏うその下に、小ぶりの向日葵が、5、6本、大きさはまちまちであるが咲いている。
よく見ると葉は色あせていて、夏のすがすがしさはない。寒さに萎れかけたような葉もついている。すでに、花の終わったものもあった。
「叔母が冬に種を撒いたってことですね。それがたまたま、桜の季節に咲いて……」
まだ吐く息も白い季節に、庭の土を掘る叔母を思うと、切なさが押し寄せる。
が、伊織さんは首を振った。
「たまたま、ではないと思います。これは、かなりの確信犯……狙い打ちです」
澄んだ声音できっぱりと言う。
「どういうことですか?」
「向日葵は種を撒いて60日で咲く、という特性があるのです。冬なので、もう少し時間がかかったと思いますが、おそらく、何年も実験して微調整したのではないでしょうか。移植を嫌う植物でもあるので、温室で育ててまた植える、というのも難しい。せいぜい、数センチの苗までは室内で育て、その後は外で寒さ除けを設けたり、さまざまな工夫を凝らしたはずです。その証拠に、おそらく、植えられているのは1種類ではないでしょう」
「1種類じゃない?」
窓を開け、そこから庭へ出てみた。風はまだ冷たいが、日差しはすっかり春めいている。室内からはわからなかったが、確かに枯れてしまっているもののうち、数本は少し花びらの色が濃く、オレンジに近い。よく見るとほとんど赤いものもある。それに、一輪咲きのものだけでなく、先端が枝分かれして、いくつも花をつけているものも。
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