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「さあ……私にもわからないのです。どうしてこの仕事をしているのか、どうしてあの年賀状のひとことが気になったのか」
伊織さんは、すみません、と小さく詫びた。
「謝らないでください。私たち、救われました。一歩間違えば、この向日葵は誰にも気づかれず、枯れていたかもしれないんです」
「どうでしょう。私などがお節介をせずとも、小日向様が気づかれたかもしれませんし」
では、そろそろ失礼致します、と立ち上がり背を向けた。その仕草に、私は気づいた。
伊織さんは、今私たちを少しだけ、突き放した、と。それは、当たり前のことだ。葬儀が終われば私たちは彼にとって客でもなんでもない。慕われても困るだろう。でも、それならなぜ、謎解きなんてやってみせるんだろう。
「いつも、こんなことを?」
つい、尋ねていた。伊織さんは不意を突かれたように私を見た。猫だましでも食らったかのように、目をぱちぱちとしばたかせる。
「こんなこと、でございますか」
「はい」
「出過ぎた真似をしたことに、お怒りですか?」
「違います。そうじゃない、でも、全ての謎を解いてしまったら、伊織さんが悲しいんじゃないかと思って」
こんなことを口にするのは初めてだった。支離滅裂だ。
論理的じゃない。わかっている。
「輪花、何を言っているんだ。お忙しいんだぞ。そんなわけのわからないことを言って、中学生じゃあるまいし。お前らしくないぞ。すみません、伊織さん」
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