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一重まぶたの涼しげな女性が、眉を吊り上げて怒っている。口紅は真紅。顎がつんと尖っている。オールバックに髪を撫でつけ、後ろの髪はフリルの大きな黒ネットの中にシニヨンを作っている。私と同じシンプルな制服だが、かなり線が細い。歳は30代後半くらいだろうか?
「すみません、到着したら2階パントリーへあがるようにと人事の方からはお聞きしておりました」
こわごわ説明すると、彼女は顔を斜めに傾げ、唇を突き出した。まるでカマキリみたいだ。
「ふーん」
「ええと。西宮と申します、宜しくお願いします」
「着替えは終わったのね。じゃあ事務所へ行くからついてきて」
「はい」
返事をしながら振り返ると、末広さんが肩をすくめていた。ほらね、という具合に。
これはかなり心が折れそうだ。
3階の事務所には、熊みたいな館長さんが、PCの前でカタカタと書類づくりをしている。挨拶をすると、お疲れ様あ、と間延びした声で返してくれた。
「おや、見た顔だな」
「先日はお世話になりました」
やっと知っている人に会えてほっとする。
「館長の権藤です。明日、書類が来るみたいだから、朝取りに来てね」
権藤館長は愛想よく笑顔を向けた。葬儀屋さんって暗い人が多そうだと思っていたけど、そんなことないみたいだ。
事務所の中にはタイムカードと葬儀の予定が書かれたホワイトボード。お線香らしき箱や、さまざまな書類の入った引き出しなどがある。お香典返しの段ボールも積んであって、ところ狭し、といった感じ。
「今日の担当は、清水くんか」
ホワイトボードを見上げながら、ヨネさんがつぶやく。私はどこをどう見たらいいのか、さっぱりだ。戸惑っていると、
「葬家名と、出棺時間、火葬場、礼状数、お料理をまずメモしなさい。ほら、日付は横にあるでしょう」
と教えてくれた。
「それから宗派とお寺の手配元が当社か、葬家か見るのよ。今日は葬家手配ね」
「葬家手配、ですか」
「菩提寺ってことだよーん」
館長が欠伸をしながら教えてくれた。なるほど、菩提寺が直接くるか、代理の手配を会社でするか、で対応が変わってくるらしい。
「明日の出棺は10時半か。七日コミか……自宅が墨田で火葬場は四ツ木。自宅回りじゃないですよね」
米原さんはさっさとメモを終えて、館長に尋ねる。
「それは清水くんに聞いてみてちょー」
熊館長は米原さんの質問をのらくら躱す。
「喪主様は?」
「故人の奥さん。和服で来てる人だよ。あと長女が中心。母親似だからすぐわかる」
と館長。
「わかりました。宜しくお願い致します」
米原さんに倣い、私もぺこりと頭を下げる。今日は伊織さんは来ないみたいだ。
事務所を出ると、
「あなた、お辞儀してみて」
と睨まれた。
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