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「あの、伊織さんはどうしてこんなに、人の想いを見抜くというか、推理するのが得意なんですか?」
清水さんは、うーん、と唸る。
「伊織さんは生い立ちが複雑だからじゃないっすかね。色々あって高校も中退して、フラフラしてたら権藤さんに声かけられてここに来たって言ってたから」
「高校を中退……ですか」
今のスマートな伊織さんからは想像もつかないけど、まさか不良だったりしたんだろうか?
「まあ、詳しいことは話してくんないけどね。俺から見たら、あの人は『優しくなりたい』人、かな。ロボットとか、宇宙人みたいに、普通の人間にいつも憧れているように見えるんすよねー」
どういう意味なのか、尋ねようとしたところで、清水さんの携帯が鳴った。
本社かららしい。
「はい、こっちは出棺終わったんで、すぐ向かいます……」
話ながら、ごめんと片手で謝り、エレベーターに乗って行ってしまった。
優しくなりたい、ということは、『今は優しくない』ってことなんだろうか。
それに、普通の人間に憧れている、なんて……。
まるで、伊織さんが謎そのものだ。
みんな、この謎に気づいているんだろうか?
それとも、謎は謎のまま、放っておこうとしているんだろうか?
私は見て見ぬふりなんてできない。
時間はかかるかもしれないけど、彼の謎に挑んでみたい。
「西宮さん、そこ終わったらお寺の部屋、片づけといて」
米原さんが式場から出てくる。
「はーい」
とっとと研修期間を終わらせて、早く伊織さんとお仕事できるようになるんだ。
霊柩車を走らせる伊織さんに想いを馳せる。
彼は、あの微笑みの下に、どんな心を隠しているんだろう。
<ひとり、ふたり 了>
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