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「失礼いたします。それでは、西宮さま。湯灌の御準備が整いました」
「はい、では行きます」
どやどやとみんなで部屋をでる。
「ティッシュ持って行ってもいいですか?」
部屋の備え付けのティッシュを私が持って出ようとすると、
「では、湯灌室へ私が新しいものをお持ちしましょう。そちらは置いて行っていただいて結構ですよ」
と伊織さんが軽くうなずく。私がティッシュを置こうと振り返ると、小日向さんが、ずれてしまったスーツケースの中身を上手く戻せず、ふた(というか、反対側半分)を閉めるのに悪戦苦闘していた。
「部屋に鍵をかけますから、完全に閉まらなくても大丈夫じゃないですか? 行きましょう?」
「ああ、まあ、確かにそうですが」
「5分ほどまえに奥様が到着されまして。エントランスで待たれていたのですが、先程地下へお通しいたしました」
後ろで父に、そう言い添える伊織さんの声がして、なんとなく心がざわっとした。母を待たせておくと、また小言を言われるだろう。
小日向さんは、慌てる私たちを見て、スーツケースを閉じるのは諦め部屋を出た。
父が鍵をぐりぐりと回して閉める。カチャン、と音がして、念のため引っ張って鍵がかかるのを確認し、
「では行こうか。小日向さん、申し訳ありませんが……」
「いえ。のちほど」
小日向さんは父に一礼し、お清め場の部屋へ戻って行った。
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