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がっくりとうなだれてベンチに戻る賢斗に、弥彦は驚きの眼差しを向けた。
「まさかと思うが、賢斗……野球をやったことは?」
「あっ、なんだよ。俺のこと初心者だと思ってるな?この一ヶ月、エドたちにみっちり教えてもらったんだぞ!」
「やっぱり、やったことなかったのか……ならどうして野球をやろうなんて」
「そりゃあ、弥彦がやりたそうにしてたから」
「別に僕はそんなこと一言も……!」
「あ、ほら、弥彦の番だよ!」
賢斗はぐいぐいと弥彦の背中を押してマウンドへと送り込んだ。
最初は仕方なさそうにしていた弥彦であったが、バットを持った瞬間、目つきが変わった。それは、純粋な子供のようなキラキラとした、楽しそうな目だった。
ピッチャーは、野球経験のあるボブだった。屈強な体から繰り出される球は、当たったら痛いに違いない。
だが、弥彦はバットにそのボールを当てた。カキーン、ときれいな音を立て、ボールは飛んだ。残念ながらホームランというわけにはいかなかったが、弥彦は目にも留まらぬ速さで塁と塁の間を走り抜け、普通は一塁まで走れれば御の字であったところを、二塁まで走りきった。
歓声があがる。
士気の上がったBチームは、その後二点を入れ、先制点を取った。
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