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大学の卒業旅行も兼ねて、サンフランシスコに住む祖父の家を拠点に、バイクであちこちを回っていた。
海沿いを走っていた時、強い風に煽られ、コントロールが狂った。
一度止まらなければ。そう判断し、急ブレーキをかけたら見事に体が空に投げ出されてしまった。
記憶は、そこで途切れたのだ。
目を覚ますと、心配そうな顔をした弥彦の姿が目に入った。
「弥彦……?俺、気を失ってた……?どのくらい?」
「三十分くらいだ。このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思ったぞ」
頭には、いつの間に用意されたのか、濡れたタオルが置かれていた。
「立てるか?」
弥彦の手を取り、賢斗は立ち上がった。
「無理するな。お前はもう棄権して……」
弥彦の言葉を遮って、賢斗は「いや」と首を振った。
「棄権はしない。大丈夫だ」
賢斗の知らぬ間に、試合は進んでいた。
九回裏。相手は六点を入れていた。対する賢斗・弥彦のチームは五点。
二点入れなければ、勝ち目はない。
その状況下で、順番は賢斗に回ってきた。
ワンナウト。一塁には弥彦がいる。
記憶を取り戻した賢斗には、勝算があった。
ほとんど賭と言ってもよかったが、それでも勝算があったのだ。
ピッチャーが投げたボールを、賢斗は打たなかった。代わりに、バットで「ポン」と音を立ててボールを当てた。バントだ。
バントをすればツーアウト。弥彦だけならホームベースに送り込めるが、同点になるだけだ。
だが、賢斗は走り出した
弥彦も、同時に走り出す。
その背中に、賢斗は叫んだ。
「いっけええ!!三島天狗!!」
弥彦は一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間さらに目を見開いて心底びっくりしたような顔をした。
後から走ってきた賢斗が、弥彦に追いついたのだ。
三塁まで走ったところで、ようやくボールが二塁の守備に届いた。
野球で塁と塁を駆ける時、曲がることを意識して、ランナーは少しスピードを落とす。
だが、三塁を曲がりきった二人には、もうその必要はない。
二人は、全速力で走った。
もはや、野球ではなく百メートル走だ。
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