百年の絆

1/11
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

百年の絆

    カーン!と、小気味よい音が球場に響いた。  バットに命中したボールは、空高く飛んでいく。  歓声に包まれ、二人のバッターがホームベースにたどり着く。スコアボードの「0」という数字板が外され、「2」という数字にはめ直される。    数字を確認すると、観衆はさらに「ワーッ!」とヒートアップした。 「よっしゃー!ホームランだ!!」  賢斗(けんと)も周囲の人と同様、立ち上がって叫んだ。心地よい熱気に包まれながら、得点の立役者となった二人のバッターに拍手と声援を送る。 「これでサンフランシスコシールズの勝利はいただいたも同然だな」賢斗は得意気に言うと、隣に座る男を見た。  彼は、他の観衆とは違った。ただ黙ってグラウンドを見ている。母親が赤ん坊を見るような目で、愛おしそうに。 「弥彦(やひこ)、完全に浮いてるぞ」 「浮いてる?何に」 「浮いてるは浮いてるだよ。なんかこう、場の空気に対して?」 「賢斗は時々変な日本語を使うよな」 「そうかなあ。まあ、日本語を使うのは弥彦といる時だけだしな。そのせいじゃないか?」  そうか、と呟く弥彦は、賢斗のことは見ない。この会話をしている間も、彼はグラウンドから目を離さない。 「やはり、本場はすごい」  独り言のような弥彦の言葉を、賢斗は聞き逃さなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!