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百年の絆
カーン!と、小気味よい音が球場に響いた。
バットに命中したボールは、空高く飛んでいく。
歓声に包まれ、二人のバッターがホームベースにたどり着く。スコアボードの「0」という数字板が外され、「2」という数字にはめ直される。
数字を確認すると、観衆はさらに「ワーッ!」とヒートアップした。
「よっしゃー!ホームランだ!!」
賢斗も周囲の人と同様、立ち上がって叫んだ。心地よい熱気に包まれながら、得点の立役者となった二人のバッターに拍手と声援を送る。
「これでサンフランシスコシールズの勝利はいただいたも同然だな」賢斗は得意気に言うと、隣に座る男を見た。
彼は、他の観衆とは違った。ただ黙ってグラウンドを見ている。母親が赤ん坊を見るような目で、愛おしそうに。
「弥彦、完全に浮いてるぞ」
「浮いてる?何に」
「浮いてるは浮いてるだよ。なんかこう、場の空気に対して?」
「賢斗は時々変な日本語を使うよな」
「そうかなあ。まあ、日本語を使うのは弥彦といる時だけだしな。そのせいじゃないか?」
そうか、と呟く弥彦は、賢斗のことは見ない。この会話をしている間も、彼はグラウンドから目を離さない。
「やはり、本場はすごい」
独り言のような弥彦の言葉を、賢斗は聞き逃さなかった。
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