喫茶店にて

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 秀一はすっかりクールになってしまった女の気色に自分は正に試されていると思うと共に俎板の鯉の状態に陥っている気もしないでもなかったが、何はさて置き切り出した。 「えーと、名前も言ってなかったですから自己紹介しますね」 「ええ」 「僕の名は川上秀一と言います」 「ああ、川上さんね、私は滝岡奈美って言います。歳は23でOLをしています」 「ああ、キャリアウーマンなんですね」 「ええ、川上さんは何をされてるんですか?」 「僕は工場の従業員です」 「勿論、正社員ですよね」 「ええ、正社員です」 「御役職は何ですか?」 「いや、まあ、只の平です」  秀一が照れ笑いしながらそう言った途端、奈美はがっくりと肩を落としたかと思うと額に八の字を寄せ、「あら、そうなの。歳は幾つなの?」とタメ口で聞いた。  幾つなのって聞き方が有るかと秀一は不満になりつつ、「あの、三十です」 「へー、三十なの。もっと若いかと思ったのに」 「ああ、そうですか。若く見えますか?」 「いえ、そうじゃなくて平と聞いて当然、二十代だと思っちゃったのよ」  先程、出し抜けにタメ口になった事やこの刺々しい嫌味な言い種に、「あ、ああ・・・」と秀一は絶句し、この女も現金な族の一人だったか、矢張り脈が無いと完全に失望した。
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